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 小型化・軽量化のための最適構造設計手法の開発
  機械電子部 ○多加充彦 加藤直孝
  金沢大学 尾田十八

1.目 的
 近年,IT産業,医用などの様々な分野でマイクロマシンのような小型化した機械の利用が期待されている。また,従来機械についても性能の向上や環境負荷の観点から,部品の小型化・軽量化が必要になってきている。しかし,機械の小型化が進むとそれに伴って,部品の組立・分解などの取り扱いが難しくなっている。また,部品間に生じる摩擦・摩耗,ガタが品質に大きく影響を及ぼすなどの問題が生じてくる。このような問題に対する有効な解決手段として,従来機械のように複数の要素部品を組み付けるのではなく,一つの連続体によって同じ機能を発揮する構造に置き換えることが考えられている。そこで本研究では,このような連続体構造部品をコンピュータ支援によって系統的に設計する手法を検討した。

図1 連続体構造部品の設計手順

図2 グリッパの設計仕様

2.内 容
2.1 連続体構造部品の設計法
 本研究では,変位や荷重を任意の大きさや方向に変換する機能を対象とし,その機能を弾性変形によって発揮することのできる連続体構造部品の設計を図1に示すような手順によって行うことを提案した。
 ステップ1:ある設計領域について,入力する変位や荷重をどのような大きさや方向に変換して出力するかを設定する。
 ステップ2:理想的な剛体部材によるテコを配置・連結させて,要求する機能を満たすようなメカニズムモデルを構築する。
 ステップ3:ステップ2で決定したメカニズムをフレーム構造モデルに置き換える。このとき,設定した機能が損なわれないように部材の長さや断面積の最適化を行う。
 ステップ4:ステップ3で決定したフレーム構造モデルを一定厚さの連続体に置き換えて,有限要素法(FEM)による機能評価を行う。必要に応じて寸法形状の最適化を行う。
2.2 マイクログリッパの設計例
 本手法を用いた具体例として,図2に示すような圧電アクチュエータの微小変位に応じて二つのフィンガが開閉し,これによって対象物をつかむ機構をもつマイクログリッパの設計を試みた。
 要求される機能を満たすメカニズムとして,図3に示すような1/2対称モデルを考える。このモデルは,点Aに入力するX方向の変位δinを部材AB,部材BCにより点Cに伝達し,点Dを支点として部材構造FCDEが時計回りに回転することでフィンガ先端EにY方向の変位δoutが生じ,対象物をつかむものである。

図3 メカニズムモデル

図4 フレーム構造モデル
(a)連続体の形状

(b)FEMモデル
図5 連続体モデル

図6 実装したグリッパ
 次に,このメカニズムを図4に示すような7節点7要素のフレームモデルに置き換え,FEMと遺伝的アルゴリズム(GA)による計算から点Eの出力変位と点Aの入力変位の比αを最大化する部材長さや断面積を求める。その結果,変位比α=10.15となる構造が得られた。なお,部材Dは回転機能をメカニズムの回転軸の代わりに曲げ変形を利用して得るために付加した部材である。
 各部材の断面積と長さが求まれば,次に図5(a)に示すような一定厚さの連続体に変換し,FEM解析によって機能評価を行う。図5(b)にFEMモデルを示す。解析の結果,連続体はフレーム構造に比べ回転支持部の変形自由度が拘束されることが明らかとなった。そのため,支持部分の形状変更を行い,最終的にα=7.81の変位比をもつ構造に改良した。
以上のように一連の手順により設計した連続体構造のグリッパを,超精密YAGレーザ加工機を用いて,厚さ1mmのばね用洋白板(C7701P-H)から切断加工し,動作確認を行った。図6はグリッパ本体を圧電アクチュエータとともにステンレス鋼製のプレート上にボルト締結により実装したものである。実験の結果,圧電アクチュエータの電圧負荷によってフィンガ先端部が開閉することを確認した。
3.結 果
本研究では,機械部品の小型軽量化への対応として,一つの連続体によってある機能を発揮する部品を設計する手法を提案した。そして,メカニズムモデルを構築できれば,容易に連続体構造が得られることを確認した。今後は,メカニズム自体の構築方法の開発について検討し,これによって高い機能を発揮する連続体構造部品を簡便に設計する手法を確立したいと考えている。


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