技術ふれあいミレニアム2000発表会要旨集
織物を利用した電磁波シールド材の開発と評価
電磁波遮蔽新素材プロジェクト
  化学食品部 ○山名一男、北川賀津一、豊田丈紫
  機械電子部  吉村慶之
  繊 維 部  新谷隆二、中島明哉


1 目 的
 電磁波を産業機械や建物から出さない、また逆に入れないための対策として電磁波シールド材の開発を進めた。特に研究対象として、石川県の産業の特徴である機械電子、繊維産業を視野に入れながら、電磁波分野での社会的ニーズに合致するという視点からシールド素材研究を進めた。この分野では、単独の技術分野だけでは対応できず、情報通信、材料、繊維、機械、建築と数多くの分野の協力を必要とする。本研究では、織物のシールド材への応用を中心として、建築材での利用を進めた。
 一般に、建物を電磁波シールドすることは、元々機密情報の外部への流出防止という観点から進められてきたが、今日では、OA機器の誤動作対策や携帯電話や無線LAN等の通信手段の電磁環境の悪化に対処するため、建物の電磁波シールドに対する需要も高まっている。現在、電磁波対応シールドビルでは、そのシールド性能により、表1に示すように、汎用型シールドビル、一般シールドビル、高性能シールドビルの3つのタイプに分類されている。
 本報告では、石川県の織物技術を用いてシールド材を試作するとともに、その試作品について、利用分野を視野に入れながら電磁波シールド効果を評価した。なお、本研究は科学技術庁「地域先導研究」の一環として進めている。

表1 電磁波シールドビルの性能別分類
分類 シールド性能 用途
汎用型シールドビル 10-20dB
(1/10)
・電磁波ノイズの多い都市部のオフィス
・無線LAN等を多用するオフィスビル
一般不要シールドビル 30dB
(1/32)

・研究開発施設
・コンピュータセンター
・役員室・会議室

高性能シールドビル 40dB
(1/100)
・重要情報を扱うビル

2 地域先導研究について

 科学技術庁「地域先導研究」に「地域産業の発展に寄与する電磁波技術に関する研究」が採択され、H11年度〜H13年度に研究を行っている。ここでは、電磁波を「防ぐ」、「計測する」、「利用する」の3グループとして、14テーマ、10機関が参加して研究を進めている。石川県工試は「防ぐ」グル ープの1つのテーマを実施しており、これまでに得られた研究成果の一部を報告する。


3 内 容 及び 結 果
 本研究では、携帯電話等の高周波領域向け電磁波遮蔽オフィスルームで使用可能な電磁波遮蔽用新素材の開発を進めている。特に石川県の織物加工技術を用いた(1)金属箔織物クロス(300MHz〜1GHzで20〜40dB)、(2)炭素繊維織物クロス(300MHz〜1GHzで40〜60dB)、(3)電波吸収可能織物(300MHz〜1GHzで5〜20dB)の3種類について研究している。

(1)金属箔織物クロスについて
  合繊織物に金属箔を貼り付けた、安価な織物素材を研究している。それに使用できる金属箔について、シールド性能を評価した。図1及び2に示すように、電界波及び磁界波ともに、ニッケル、アルミ、銀の順にシールド性能の向上が見られ、電界波で20〜50dB、磁界波で0〜50dBを示した。これらの素材を利用すると比較的簡単にシールドが可能であることがわかった。
図1 金属箔の遮蔽効果
(電界波)
図2 金属箔の遮蔽効果
(磁界波)

(2)炭素繊維織物クロスについて
 炭素繊維織物では図3及び4に示すように、電界波で40〜60dB、磁界波で10〜40dBのシールド性能を示した。これに、Ni-Cuコーイテングを行い、シールド性能を比較した。図3に見られるように、電界波では 100MHz以上の高周波領域でその向上が見られ、磁界波でも周波数全般に10dB以上の向上が見られた(図4)。今後、更に素材の改良を進めていく予定である。
図3 炭素繊維織物のシールド効果
(電界波)
図4 炭素繊維織物のシールド効果
(磁界波)

(3)電波吸収可能織物について
 炭素繊維には吸収性能があるが、それを織物とした場合の吸収機能を評価した。透過減衰では周波数に関係なく、約30dBを示し、反射減衰ではベースラインと同等の値を示した。これはアンテナから出した電波がそのまま跳ね返ってきていることを示しており、炭素繊維織物では、シールド性能ではほぼ反射によるものであることがわかった。今後シール材しての炭素繊維織物と、セラミックス等の吸収材を組合わせすることにより、電波吸収可能織物を試作していく予定である。



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