技術ふれあいミレニアム2000発表会要旨集
環境調和型産業資材の実証化
 
−生分解性繊維の開発と実用化−
繊維部 ○山本 孝  木水 貢  森 大介  新保善正
水産総合センター 永田房雄


1.目 的
 近年、他のプラスチック製品と同様に合成繊維廃棄物も環境問題のひとつとして取り上げられるようになってきた。当場では、これを解消する手段として、生分解性プラスチックを繊維化する技術の開発に早くから取り組み、その結果、力学的特性の優れた繊維を作製することができた。しかし、新しい素材である生分解性繊維がさらに材料として認められるためには、その性質を活かした用途を明確に提案するための実証テストの積み重ねが不可欠である。
 本研究では、県内の企業や各公設試験研究機関と連携して製品の試作を行うとともに、各公設試の施設・敷地を利用したフィールドテストで生分解性の評価を行った。

2.内 容
2.1 繊維製造技術の企業指導
図1 
企業設備で作製した生分解性繊維
(左からフラットヤーン,モノフィラメント,
マルチフィラメント)
 各種生分解性プラスチックのうち、性能(疎水性,湿潤強度,寸法安定性など)や加工性の面(溶融紡糸,熱接着)から、熱可塑性を持つポリマーを繊維化の対象とし、微生物産生ポリエステルPHB/HV(ポリ3-ヒドロキシブチレート/3-ヒドロキシバリレート)をはじめ、化学的に合成されるポリブチレンサクシネート、発酵と化学合成の組み合わせでつくられるポリ乳酸などについて製造条件の検討を行った。
 このようにして蓄積した知見をもとに民間企業を指導し、モノフィラメントやフラットヤーン、マルチフィラメントなどの各種生分解性繊維を企業設備で大量生産可能とした。現在は各々のポリマー単独だけではなく複数のポリマーからなる繊維も製造し、各種用途に対応できるようにしている。

2.2 実用化を目指した応用製品の試作
 各公設試との討議や共同研究企業のニーズ調査をもとに、県内企業の協力で生分解性繊維の性質を活かした製品を試作した。代表的な事例を以下に示す。

(1)漁網・植生ネット
 流出漁網等の問題から水産庁が生分解性プラスチックの応用についていち早く調査を開始するなど、水産関係は生分解性繊維の大きなニーズである。漁網は基本的にモノフィラメント単独かその合撚によって作製される場合が多い。そこで、実験設備でモノフィラメントの連続生産が可能となった頃からかにかごや刺し網等の具体的な用途向けの試作品を作製し、操業試験を行った。
 水産関係以外の用途例として、盛り土や法面の崩れを防止するために用いられる植生ネットを試作した。従来の植生ネットは、草が生えれば不要であるにもかかわらずいつまでも残るため、草刈り機の刃が引っかかったり、子供がつまずくといった問題が起きている。生分解性繊維を用い、雑草の繁茂によって法面が安定する頃に分解消失するネットができればこのような問題は解消されると考えた。具体的には、生分解性のモノフィラメントとフラットヤーンを用い、ラッセル編機で作製した。漁網タイプも含めてこれらの網素材は、防鳥ネット、つるもの用ネットなど各種用途に使用可能であり、緑化用の資材としても採用された。

(2)土のう袋
 埋め立て処理廃棄物の運搬用や河川緑化用の植生基盤など、回収できない用途向けとして生分解性の土のう袋を試作した。袋の口を締めるロープも生分解性のものを用いている。従来の土のう袋を埋め立て処理廃棄物の運搬用に用いた場合、内容物以外に袋自身も埋め立てることになり、処分場の寿命を縮めてしまうが、生分解性の土のう袋ならばこの問題はなくなる。この他、幼木の生育時に雑草の繁茂を防ぐため、幼木周辺に堆肥等を詰めた土のう袋を設置するといった用途が考えられている。また、繊維の隙間から水分を排出できることから、水分を多量に含む生ゴミ処理用途にも最適と思われる。
図2 生分解性繊維応用製品の試作例
(左上から植生ネット、土のう袋、フラットヤーン織物、ロープ、人工産卵藻、ネット )

(3)濾過材・人工産卵藻
 水質浄化用機器の付帯設備として用いられる濾過材は、汚れたあとは回収して埋め立てあるいは焼却処理する必要がある。このため、生分解性繊維を用い、容易に廃棄できる濾過材を試作した。また、養殖用に使用されている人工藻(従来はポリエステル製)も試作した。生分解性繊維を用いれば、回収の省力化が図れ、廃棄も容易である。また、大波等による流出があっても自然に分解するため、環境に影響を与えない。これらについては人工漁礁への応用も提案している。

(4)その他
 モノフィラメントやフラットヤーンを用いてロープを作製した。これらのロープは、前述の土のう袋をはじめ、畜産、林業、一般産業用等に使用できる。また、生分解性繊維を用いた各種織物を試作した。モノフィラメント製はフィルター、フラットヤーンやマルチフィラメント製はジオテキスタイル用途に適すると考えられる。この他、横編み企業の協力で小型の水切りネットも試作している。


図3 交撚糸の分解状態
(水深5m、14ヶ月後)50倍
2.3 フィールドテストによる性能評価
(1)生分解性の評価
 生分解性繊維の実用化にあたっては、使用環境に適した生分解速度が要求される。このため、土壌埋設や海水浸漬によるフィールドテストでその生分解性を評価した。
 試作した各種生分解性繊維については、これまでに計4回のテストを石川県内(石川県水産総合センター海面筏、石川県農業総合研究センター実験圃場)の他、共同研究企業の協力によって、長崎県、千葉県、茨城県、神奈川県など日本各地で実施し、それぞれの分解挙動を把握してきた。さらに実用段階での生分解挙動を明確にするため、生分解性繊維で網を試作し、水深約1m、5m、海底(17m)の3段階に設置して、その経時変化を観察した。その結果、S3製の網については、水深1mで設置後約4カ月、水深5mで約11カ月後、海底で約17カ月後に破網しはじめ、破網部分が徐々に拡大していくことを確認した。単純に比較することはできないが、水深が深いほど分解が遅いことが推定される。図3に二種類の糸で作製した網の走査電子顕微鏡写真を示す。網としての外観上は変化が現れないが、拡大してみると明らかに片方だけが分解しており、混合紡糸の糸と同様、分解速度の異なる糸を組み合せることで新たな用途展開の可能性が考えられる。この他、繊維状での分解挙動をさらに確認するため、フィルムを試作して農地や住宅地で土壌埋設実験を行っている。

(2)実用性能の確認
1)生分解性漁網の操業試験
 深海にかごを設置してかにを捕獲するかにかご漁では、操業中にかごが海底にひっかかってやむなく放棄する場合があり、放置されたかごが半永久的にかにを捕獲して漁場の荒廃を招くことが危惧されている。水産庁水産工学研究所が、当場試作の微生物産生タイプの生分解性繊維でベニズワイガニの試験操業を行い、従来のポリエチレン繊維製のかごと比較しても漁獲量には大差なく、また、深海に放置した場合も分解が進むことを確認した。この実験に続き、化学合成タイプの糸でかにかごを試作し、石川県水産総合センターでズワイガニを対象に試験操業した。石川県沖大和堆での2回の実験で、化学合成タイプの生分解性繊維もポリエチレン繊維製のかごと漁獲性能に差はないことを確認した。

2)生分解性土のう袋の設置試験
 試作した土のう袋について、草地に放置した場合の防草効果と生分解の状況を確認するため、当場敷地内の草地に放置して観察を行っている。最終的には内容物も分解して何も残らないことを意図して、中には木材の廃材を詰めた。前述の幼木育成用途では、最適な分解期間は約5年と言われており、約半年過ぎた現在では大きな変化もなく、防草の役目を果たしている。
 土のう袋がこれまでに採用された代表的な例として、K県の河川法面の緑化用途(種を入れた袋を縫い合わせた植生土のう)と、M県の水辺公園の岸辺浸食防止用途があり、今後の拡大が期待される。
図4 生分解性かにかごの操業試験 図5 生分解性土のう袋の施工例

3.結 果
 生分解性繊維の製造技術を企業に指導するとともに、各種製品を試作し、実用化試験を行った。その結果、企業の生産設備でフラットヤーンやモノフィラメント、マルチフィラメントなどの生分解性繊維が製造可能となり、これを用いた各種応用製品についてフィールドテストでその実用性能を確認することができた。また、開発した繊維やその応用製品は、共同研究企業を通じて商品名「アミティ」として販売されるようになった。


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