技術ふれあいミレニアム2000発表会要旨集
骨密度測定装置のデザイン開発
製品科学部 ○梶井紀孝 志甫雅人


1.目 的
 当試験場は,骨密度測定装置を製造する県内企業と共同で,新しい機種のデザイン開発を行った。この装置を設計するには,筐体と内部部品との干渉を検討する必要がある。しかし,従来の開発手法では,製品の透視図または図面による平面上での検討のため,干渉チェックが困難であり,試作での確認が必要であった。また,足の踵部分で骨密度を測定する装置のため,足を入れた時の使いやすさや測定精度の検討が重要であり,数多くの試作を繰り返す必要があった。このように,試作と改善設計に多くの時間が必要となり,新製品開発の期間短縮がこの企業の大きな課題となっていた。
  そこで,当試験場の三次元CG,CADシステムを利用した最新の設計支援技術と光造形システムによる迅速試作加工技術とを駆使して,この企業の設計,試作,改善工程の合理化を試みるとともに,新製品開発の支援を行った。


2.内 容
 使用した3つのシステムの概要を表1に示す。また,図1に開発プロセスと使用したシステムを示す。以下,この開発プロセスに沿って,その内容を述べる。
表1 システムの概要
システム名 メーカー・型式 用途 主な仕様
三次元CGシステム 米国 Alias/wavefront社製
Alias STUDIO
コンピュータ上で製品の形状, 質感,色彩,光の反射率などの 設定を行うことで,実物に近い製品デザインの検討が行える。
サーフェイス,ワイヤーフレーム によるモデリング機能
レンダリング機能
アニメーション機能
三次元CADシステム 米国 SDRC社製
I-DEAS Master Series 5
コンピュータ上の疑似空間内で製品の設計を三次元的に行う。また作成された形状データはCAE,CAMに使用可能である。
ソリッド,サーフェイス,ワイヤーフレームによるモデリング機能
アッセンブル(組立)機能
ドラフティング
(三次元モデルを平面図化)機能
光造形システム NTT データシーメット株式会社製
SOUP U 600GS
光硬化性樹脂を用いた光造形法により,三次元データ(STLファイル)を樹脂モデルに造形する。
最大造形サイズ:縦幅600×横幅600×深さ500mm
レーザ光源:半導体レーザ
積層ピッチ:0.1mm
光硬化樹脂:エポキシ系



図1 開発プロセスと使用システム

2.1 基本設計
 当試験場と企業で,開発する装置のデザインの方向性について打ち合わせを行った。その結果,次の項目が重要視された。
(1) 測定部とデータ処理・表示部の一体化
(2) 使いやすさの向上
(3) 親しみのある外観デザイン
 企業がこれまで製造してきた装置は,測定部だけで,測定データの処理と結果の表示には外付けのパソコンを用いていた。これに対して,今回の開発装置は,測定部とデータ処理・表示部を一体化し,装置本体で測定結果が得られるもので,この点が開発の大きな特徴となっていた。
 また,従来製品よりも使いやすく,外観形状に親しみを持たせることも企業から要求として挙げられた。
 そこで,これらの項目を実現するためのより具体的な条件を整理してみると,次のようになった。
(1) 小型で足を挿入しやすい形状にする。
(2) 足の挿入方法や踵を固定する位置を示唆する形状にする。
(3) 足を入れながら操作しやすい位置に操作パネルを配置する。
(4) 操作中に見やすい位置に小型モニタを配置する。
(5) 競合商品と差別化を図る個性的なデザインにする。
(6) 運びやすい形状にする。
 これらの条件を考慮しながら,当試験場で十数案のアイディアスケッチを手書きで作成した。そして,具体的に製品デザインの検討を行うため,最も条件に適合すると思われる3案を選定し,三次元CGシステムでリアルな製品画像を作成した。このCG画像により,企業との打ち合わせで合意が取りやすくなり,最終的に1つのデザイン案に絞った。

2.2 詳細設計
 内部部品と干渉しない筐体形状を設計するため,三次元CADシステムを用いて,部品の形状入力と組み付けを行った。そして組付け部品をガイドに,決定したデザイン案に基づく筐体の形状入力を行った(図2)。この際,三次元CADシステムの利用により,内部部品のレイアウトの変更や筐体との干渉チェックが容易になり,内部部品と干渉しない筐体設計が短期間で行えた。
図2 三次元CADによる筐体の設計

2.3 デザイン検討
 設計した筐体デザインの検討を行うため,三次元CADシステムで作成した形状データを三次元CGシステムに取り込み,素材感や色彩,ロゴマークの張り付けを含む外観デザインのシミュレーションを行った(図3)。その結果,筐体のエッジが鋭く感じられ,エッジをより緩やかにする設計修正が必要となった。そこで三次元CADシステムに戻り,形状の修正と再度干渉チェックを行った。
図3 CGによるデザインシミュレーション

2.4 試作
 筐体のCADデータを,三次元データ編集装置で光造形システム用のデータに編集し,光造形システムを用いて樹脂モデルを造形した。薄肉形状からなる筐体の加工が,従来の木型から簡易型を用いて成形する方法で約15日間の日数を必要とするのに対して,4日間で完成し,試作加工の大幅な期間短縮となった。その後,この樹脂モデルに研磨と塗装を施し,内部部品の組み付けを行った。

2.5 問題点の抽出
 当初の条件を満たすデザイン開発が行われたかどうかを確認するため,試作モデルを用いて使用テストを行った。
 また,展示会(MEX金沢'99)に出品し,ユーザの意見収集も行った。
 その結果,次の問題点が抽出された。
(1) 筐体形状に関するもの
・測定部が深い位置にあり,足の挿入に不安を感じる。
・足の挿入位置が高く,座った状態で足を入れづらい。
(2) 測定方法に関するもの
・足のサイズが,特に大きい人や小さい人の測定値に誤差が生じやすい。
・左足による測定が行えない。
(3) 操作性に関するもの
・操作キーの表示と配列が悪く,操作手順が分かりにくい。
・足を挿入した状態で操作キーが押しづらい。
(4) 表示方法に関するもの
・表示に用いる小型モニタが小さく見えづらい。
・見る角度によって,文字が見えづらい場合がある。
(5) デザインの印象に関するもの
・CG画像で確認した印象より,ボリューム感が大き過ぎる。
・医療用具として,見た目の清潔感が足りない。
(6) 運搬性
・重く,手がかりもないので,持ちづらい。

2.6 改善開発
 抽出された問題点に関して企業と検討を行い,次の改善開発を行った。
(1) 筐体形状の小型化
 問題点の多くは,筐体形状が大き過ぎることが原因と考えられた。そこで小型化を図るために,内部部品の再選定を行うとともに,三次元CADシステムを利用して,各部品のレイアウトと筐体形状について再考した。その結果,小型部品の選定,コンパクトな部品レイアウト,筐体形状の変更等によって,筐体容量を60%に減少することができた。
(2) 測定方法の改善
 装置の足受け部分を付け替え可能な別部品にし,ユーザの足サイズに合わせた部品を使用することで,足サイズの違いによる測定誤差をなくした。また,形状を対象形にすることで,左足の測定が可能になった。
(3) 操作性の向上
 操作手順に沿ったキー配列と表示に改良するとともに,操作性の良いフラットパネル仕様に変更した。
(4) 表示方法の改善
 測定中の動作範囲の視点から,小型モニタが平均して見える角度や位置に修正した。
(5) デザイン形状の改善
 親しみが得られるデザインにするため,全体的に丸みを帯びたデザイン形状に変更した。また,清潔感を持たせるため,筐体色を前回の青から白に変更し,筐体下部と足受けの部分に木材を使用した。この際,親しみのある筐体色を選定するため,色の違う数種類のCG画像を用いてアンケート調査を行った。
(6) 運搬性の向上
 筐体の小型化に伴い,重量が軽減した。さらに筐体両側に小型の取手を付けた。この際,持ちやすい取手の位置や形状の検討を光造形モデルを用いて検証した。

2.7 最終評価
 改善設計に問題点が生じていないか,試作を用いて検証した後,展示会に出品した。 (いしかわ情報システムフェア2000)その結果,前回の問題点は解消され,ユーザからも高い評価を得ることができた。(図4) 現在,この装置は医療用具として申請を行っており,2001年3月に発売予定である。
図4 最終試作

3.結 果
 今回の開発の結果,以下の成果を得た。
(1) 三次元CGシステムによるデザインシミュレーションや三次元CADシステムによる干渉チェックよって,装置の設計が合理的に行えた。
(2) 設計した三次元データを光造形システムを用いて,迅速に試作することによって,実物モデルを用いた使いやすさの検討が容易になった。
(3) 3つのシステムを連携して用いることによって,設計,試作,改善の工程が大幅に合理化できた。
 今回の開発で,改善開発が短期間で行えた理由として,蓄積した部品データの利用が挙げられる。そこで,部品の形状データをライブラリ化することで,今後より早く新製品の開発が行えるものと思われる。
 また,改善開発で見られたように,三次元CGによるデザインシミュレーションとともに,ボリューム感がわかる実物の簡易モデルを作成すれば,製品のボリューム感が掴みやすくなり,試作の回数が減少すると予測される。
 今後は,製品の三次元データを利用した開発工程の合理化について,さらに考察を深めていきたい。



* トップページ
* 2000要旨集