技術ふれあいミレニアム2000発表会要旨集
高精度・高速化自動目視検査技術の研究開発
製品科学部 ○米沢裕司 漢野救泰
情報指導部 中野幸一


1.目 的
 生産工場の現場では,目視検査工程の自動化が難しく,未だに人間の目視に頼っているところが多い。そのため,検査基準が検査員の体調や心理状態に左右され一定とならず,製品品質に大きなばらつきが生じ,製品信頼性の点において重大な問題が生じることがある。
 特に目視検査が困難なエンドミルに代表される棒状切削工具では,その切れ刃面にキズや欠け等の欠陥があると,その工具により加工された加工物の切削面にキズが生じたり面粗さが悪くなるなどの悪影響を及ぼす。
 本研究では,このような工具の欠陥を自動的に検出する装置を開発することを目的とする。ここでは,棒状切削工具のうちエンドミルを例として,その検査手法と実験結果について述べる。

2.内 容
2.1 検査対象箇所
図1 エンドミルの外観
 エンドミルの外観および検査対象箇所を図1に示す。実線で囲った部分は底刃と外周刃のコーナー部分であり,この箇所が欠けているものは不良品である(図2)。また,点線で囲った部分は外周刃であり,この箇所にキズや欠けがあるものも不良品である(図3)。本研究で開発する装置はこの2種類の欠陥の有無を自動的に検出するものである。
 エンドミルは図1のように螺旋状をしているので,一度にすべての検査画像を取り込むことは不可能である。そこで,本装置ではエンドミルの位置を制御しながら図1のようにいくつかの領域ごとに分割して検査画像をパソコンに取り込み,欠陥の検出を行っている。

図2 コーナー部分の欠陥
(上:良品、下:不良品)
図3 外辺刃部分の欠陥
(上:良品、下:不良品)

2.2 装置の構成
 図4に装置の構成を示す。棒状切削工具はコレットチャックを備えたスピンドルに装着されており,パソコンからの制御により任意の位置に動かすことができる。また,棒状切削工具の斜方向に拡散照明を配置している。これは,照明から直接光は入射せず,リフレクタで反射した光が棒状切削工具の刃面に入射するようになっている。この照明により,刃面に比較的均一に光が当たるようになり,強い正反射を避けるようにしている。
 また,CCDカメラで得た検査画像はテレビモニターを経由してパソコンに取り込まれる。パソコンは切削工具の位置を制御するとともに,以下に述べる手法により,切削工具の欠陥を検出し,画面に表示するようになっている。

図4 装置の構成

2.3 欠陥検出方法
2.3.1 外周刃の欠陥検出
 欠陥の有無を検出するにあたり,正常な場合の刃の形状を画像処理により推定し,それと実際の刃の形状とを比較することで欠陥の検出を行った。具体的には,検査対象箇所をカメラでとらえ,次の(a)〜(d)の画像処理を行うことで,キズの検出を行った。
a) 検査画像の2値化
検査画像(図5)を2値化画像に変換する。
b) 刃先形状の検出
エッジ検出を行うことにより,刃先形状の検出を行う。(図6実線)
c) 正常な刃先形状の検出
ハフ変換により,b)で検出した刃先形状を2次曲線(図6点線)で近似する。この2次曲線をキズなどがない正常な刃先の形状とみなす。
d) キズの程度の数値化
b)で検出した実際の刃先形状とc)で検出した正常な刃先形状の差異を検出する(図7)。キズがある場合はこの差異が大きくなり,キズがない場合は差異は小さくなることから,この処理により,キズの程度を数値化することができる。
 この手法は,検査画像自身を用いて,検査の基準となる正常な刃先形状を推定するため,あらかじめリファレンスデータを備えておく必要がない。そのため,径の違いなどによって,刃の形状(曲率等)が異なる場合でも,それに対応したリファレンスデータをその都度入力することなしに,検査を行うことができる。
図5 検査画像
図6 エッジの検出
図7 キズの検出


2.3.2 コーナー部の欠陥検出
 コーナー部分の欠けの有無の検出においても,外周刃の場合と同様に,ハフ変換を用いた方法で行った。具体的には,外周刃と底刃とのコーナー部分をカメラでとらえ,次の(a)〜(e)の画像処理を行うことで,欠けの検出を行った。
a) 検査画像の2値化
検査画像を2値化画像に変換する。

図8 コーナー欠けの検出
b) 刃先形状の検出
エッジ検出を行うことにより,刃先形状の検出を行う。
c) 外周刃の正常形状の検出
ハフ変換により,b)で検出した刃先形状を2次曲線(図8:破線)で近似する。この2次曲線をキズなどがない正常な外周刃の刃先の形状とみなす。
d) 底刃の正常形状の検出
ハフ変換により,b)で検出した刃先形状を直線(図8:点線)で近似する。これをキズなどがない正常な底刃の刃先の形状とみなす。
e) 欠けの大きさの検出
c)の曲線とd)の直線で囲まれた領域内で,刃がない部分の画素数を調べる。これは欠けの大きさに相当し,この部分が大きい物は不良品である。

2.4 初期位置合わせ
 適切な検査画像をカメラでとらえるには,エンドミルの刃面での反射光がカメラに入射するよう,エンドミルの刃面とカメラ軸との角度を精度良く調整する必要がある。また,正確な検査のためには検査箇所が画面中央に位置するようエンドミルの軸方向についても位置を合わせる必要がある。このような位置合わせは検査員が手作業で行うことも可能ではあるが,検査員の負担軽減と検査時間の短縮のために,自動化を行った。

2.4.1 軸線方向の位置合わせ
 エンドミルのコーナー部が画面の所定の位置にくるように,次の手順で軸線方向の位置合わせを行う。
(1) エンドミルの画像から,エンドミルの左端の位置を検出する。
(2) (1)で検出したエンドミル位置とあらかじめ定めた所定の位置とのずれを計算し,ずれ量に応じてエンドミルを移動させる。

2.4.2 回転方向の位置合わせ
 軸線方向の位置合わせの後,次のような方法で回転方向の位置合わせを行なう。
(1) エンドミルの画像を取り込み,2値化を行う。
(2) 2値化画像を図9のように2分割し(それぞれ画像上部,画像下部とよぶ),それぞれの領域における白の画素数をカウントする。そして,この画素数に応じて次の4通りに場合分けし,エンドミルを回転させる。
a) 画面上部の白の画素数がある程度以上ある場合(図9:(a))
画面の上方または画面外にコーナー部が写っている場合であり、300度回転させる。

図9 初期位置合わせの方法
b) 画像上部,画像下部ともに白の画素数が0の場合(図9:(b))
画面にコーナー部が全く写っていない場合であり,10度回転させる。
c) 画像上部の白の画素数が0で,画像下部の白の画素数が0でない場合(図9:(c))
画面下部にコーナー部が写っている場合であり,2度回転させる。
d) 画像上部の白の画素数が少量ある場合(図9:(d))
画面中央にコーナー部が写っている場合であり,位置合わせを終了する。
ここで用いる回転角度や基準となる画素数等はエンドミルの径などによって異なる。
(3) 位置合わせが終了するまで(1)(2)を繰り返す。
 以上のような位置合わせ手法により,どのような向きおよび位置にエンドミルをチャッキングした場合でも,常にエンドミルのコーナー部分が画面中央左側に位置するように移動させ,正しく検査を開始することができる。

2.5 欠陥検出実験
 エンドミルをスピンドルに装着し,欠陥の検出実験を行った。実験に用いたエンドミルは直径3mmの2枚刃のもの104本で,そのうち4本が不良品である。それらの欠陥を本装置により正しく検出できるかどうかを検証した。
 実験では,コーナー部分,外周刃部分それぞれにしきい値を設定し,しきい値を超えるキズが検出された場合,不良品と判定した。検査に要した時間は,エンドミルの初期位置によって多少異なるが,位置合わせに要する時間を含めて1本につき15〜20秒であった。
表1 実験結果
サンプル総数 104本
検査官による
目視検査結果
不良
100本 4本
装置による
検査結果
不良 不良
92本 8本 0本 4本
  実験結果を表1に示す。不良品の4本はすべて本装置により欠陥が検出され,正しく判定された。例として,コーナー部の欠陥を本装置により検出した結果を図10に示す。図の左上の白い三角形は本手法により欠けと判断された領域を示しており,コーナー部分の欠けの領域を正しく検出していることがわかる。また,外周刃の欠陥検出の例を図11に示す。図の上側は検査画像を,下側のグラフは本手法により検出されたキズの大きさを表している。図からわかるように,キズがある場合は,それが検出結果によく表れている。
 一方,表1にみられるように,検査員による目視検査結果が良品であるにもかかわらず,誤って不良品と判定されたものが8本あった。これは,エンドミルの刃先の表面に付着したほこりなどをキズと判断してしまったためである。これについては,ほこりなどとキズとを判別する手法を組み込むなど,今後の改良が必要だと考えている。

図10 コーナー部の欠陥の検出   図11 外周刃の欠陥の検出

3.結 果
 本研究では,従来人間の目視に頼っていた棒状切削工具の欠陥検査を自動的に行う装置の開発を行った。開発した装置の主な特徴は以下の通りである。
(1) 工具の斜方向から拡散照明を行うことにより,鮮明な検査画像を得ることができた。
(2) ハフ変換を用い正常な刃の形状を推定することにより,リファレンスデータを必要とせずに,欠陥を検出することが可能になった。
(3) 欠陥検出実験から,キズを精度良く検出できることを確認した。


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