技術ふれあいミレニアム2000発表会要旨集
排便検知センサシステムの開発
機械電子部 ○筒口善央 米澤保人
         山田有河


1 目 的
 寝たきりの高齢者・障害者を抱える家庭では,看護者の高齢化や時間的な束縛感による精神的なストレス,疲労が問題となっている。看護者の負担軽減を図るための介護支援機器の開発には,特に排便処置に対しての要望が強い。排便は被看護者にとって不快感を与え続け,また,排便が下痢便の場合は皮膚かぶれ等の病気原因ともなる。そのため,排便後はすぐにおむつを交換し皮膚を清潔に保つことが望ましい。しかし,排便を検知する有効な手法は開発されていない。そこで,本研究では,におい測定技術に着目し,3種類のにおいセンサを用いて排便を検知するセンサシステムの開発を目的とした。


2 内 容
2.1  排便検知センサシステム
 図1に本研究で試作開発した排便検知センサシステムの概念図を示す。本システムはおむつ部,センサ部,データ処理部の3つで構成されている。おむつ内の臭気を吸引用チューブを使って吸引し,においセンサに導入する。その応答信号をAD変換してパソコンに取り込み,データ処理する。

2.1.1 おむつ部
 おむつ内に吸引用チューブを図2のように挿入した。これは,においを吸引して確実にとらえるためとにおいセンサを繰り返し使用するためである。

図1 排便検知センサシステムの概念図 図2 おむつ部の取り付けイメージ

2.1.2 センサ部
 本研究では,小型,軽量,低消費電力,長寿命信頼性に優れた半導体式においセンサを使用した。 しかし,においセンサは単一種類で排泄臭のような複雑な混合臭を区別するのは困難であるため,排泄臭の主な成分に感度がある表1に示すにおいセンサを選択した。においセンサ感度を維持するため,排泄臭気測定20秒後,においセンサ表面浄化30秒を行い,これを1サイクルとして,繰り返して測定した。 表1 今回使用した半導体においセンサ
主要感度ガス 型式 材料
硫化水素ガス AET-S ZnO系
アミン系ガス CH-N SnO系
VOC(有機揮発性)ガス CH-A SnOjh系


2.1.3 データ処理部
 においセンサ信号は(株)キーエンス製NR-250 PCカード型データ収集システムでAD変換を行ってパソコンに取り込み,データ処理した。

2.2  評価試験
 試作システムを評価するため,千木病院において80〜90歳の寝たきりの高齢者を対象と
した評価試験を女性5人,男性2人の計7人に対して行なった。試験器具の取り付けなど医療行為に関する内容は,全て同病院看護婦により行われた。また,試験に対しては家族の方の同意に基づいて行なった。

2.2.1 取り付け方法
 図1で示した吸引チューブの取り付けは,体動によって皮膚を損傷させないために,腹部側に誘導することとした。

2.2.2 測定方法

 排便を確実に計測するため,坐薬によって排便処置がなされる患者を対象として測定を行なった。坐薬にはビサコジルと呼ばれる大腸刺激性下剤を使用した。これは排泄臭に化学的変化を与える恐れはない。坐薬を挿入した後,紙おむつを装着して測定を開始した。においセンサ信号が閾値から変化したときにおむつ内を観察し,排泄現象とセンサシステム検出結果との関係を調べた。

2.2.3 試験結果
 評価試験を行なった測定結果例の一部を図3に示す。2.1.2で述べた各サイクルごとのにおいセンサ信号ピーク値を結んで応答特性を示している。縦軸はセンサ電圧(V),横軸はサイクル(回数)である。排便が確認された図3では,アミン系センサよりVOCセンサの応答変化が大きい。尿が確認された場合はこの逆の特性が得られており,3種類のにおいセンサによって排便を検知できることが分かった。
  図3 便の場合の応答特性例

3 結 果
 排便検知センサシステムを試作した。3種類のにおいセンサ応答を組み合わせる事によって排便が検知でき,試作したセンサシステムが排便検知に有効であることを示した。
 本システムの実用化のため,さらに評価試験回数を増やし,排便検知の信頼性を高めたいと考えている。

 謝  辞
 本研究を遂行するに当たり,終始適切なご助言を頂いた東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授 辻隆之氏,金沢工業大学 高度材料科学研究開発センター 教授 南戸秀仁氏,金沢経済大学 教授 大藪多可志氏に感謝します。本システムの試作にご協力いただきましたジャパンゴアテックス(株),新コスモス電機(株)に感謝致します。試作システムの評価にご協力を賜りました金沢大学医学部保健学科 教授 真田弘美氏,同助手 紺家千津子氏並びに千木病院 看護部長 新谷喜美子氏,同婦長 福島弓子氏に深く感謝します。


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