組紐技術を用いたCFRP製品の開発  ―繊維技術の非衣料分野への応用―

 組紐(組物)は織物や編物と並ぶ繊維製品の一つであり、製品の長手方向に対して、複数の糸が互いに傾斜して交差することによって形成されています。一般に組紐は円筒形状(丸打ち)と平板形状(平打ち)に分類されます。我が国における組紐の歴史は、土器の文様に見られるように縄文時代にまで遡り、武具等の装飾品から、着物の帯締め等に用いられてきました。近年は靴紐、ロープ等に加えて、携帯電話のストラップ等に利用されています。

 工業試験場では従来の衣料分野に加えて非衣料分野における商品開発を支援するため、石川県で培われた組紐技術を先端材料の一つである炭素繊維強化複合材料(以下、CFRP)の基布として利用する取組みを行っています。ここでは組紐を用いたCFRP製品の研究開発事例について紹介します。

(1)組紐技術を用いた長尺CFRP製品の開発

 組紐は生産性が高く、組角度等の設計が容易で、長尺CFRP部品への応用に適しています。本研究は石川県産業創出支援機構、県内企業、大学等と連携して、大型液晶テレビの生産工程に用いられているガラス搬送用ロボットのアームへと用途展開を図っています(図1)。従来のガラス搬送用ロボットのアームの製造は、一般に手作業で樹脂を含浸させた炭素繊維シート(プリプレグ)を裁断後、マンドレル(芯材)に積層・巻付けた後、型に入れて加熱・硬化させることにより成形しているため、生産性が低く労力を必要としています。本研究では、組紐装置と連動した連続引抜成形手法(図2)の確立により、時間短縮とコスト低減化を図りました。

 また、ガラス搬送用ロボットのCFRP製アームは、ガラスの大型化にともない、高い曲げ弾性率を有していることが要求されているため、強度解析シミュレーション等により高弾性率化に適した組紐構造の検討を行いました。


図1 試作したCFRP製筒型ロボットアーム

図2 組紐と連動した連続引抜成形手法

(2)組紐を用いたFRP用立体基布の作製技術の確立

 組紐は成形品の形状に応じた高性能基布(プリフォーム)の製造手法としても注目されています。本研究では、長手方向に異なる断面を有する立体基布の製造手法として活用することを検討しています。CFRP製品の強度や弾性率等の性能を左右する要因の一つとして糸の配列(組角度)があります。長手方向に異形断面を有する組紐工程において、所定の組角度を保持するため、マンドレルの断面形状の変化に応じて、マンドレルの移動速度を制御する手法について製造条件の確立を目指しています。この組紐手法による筒型CFRP(図3)は、織物等を裁断して巻き付けた場合と比較して、シームレス(糸の切れ目がない)で優れた強度特性等を有しています。


図3 組紐を用いた立体CFRP(異形断面)

 また、組紐は織物と比較していろいろな形に加工が容易(賦形性に優れる)等の特徴を有しており、型成形用の基布としても注目されています。今後も県内企業や大学等と連携して組紐技術をCFRP分野へ活用する研究開発に取り組んでいきます。

 

担当:繊維生活部 森 大介(もり だいすけ)

専門:繊維加工、繊維機械

一言:組紐をCFRP分野へと用途展開を進めます。