有機単分子膜を金属防錆に応用  ―新たな防錆処理技術の開発を目指して―

 末端に硫黄を持つ有機分子を有機溶媒や水に溶かして、それに金属基板を浸すと、基板表面と硫黄が化学結合し、有機分子が一様に配列した一層の膜(有機単分子膜)が形成されます。この膜の特徴は、非常に薄い(数nm)ことや、金属表面が有機分子の特性によって改質できることで、有機発光ダイオードや有機トランジスタなどの有機デバイス分野での活用が期待されています。

 工業試験場ではこの技術を利用し、新たな防錆処理技術の開発に取り組んでいます。この技術が確立されれば、従来の防錆油のように部品検査時などに除去する必要がないために無防錆状態が解消され、錆の発生リスクが軽減できます。現在、銅及び銅合金基板を対象に、疎水性や高緻密性の特性を持つ分子などで製膜し防錆性を検討しています。その結果、珪素と硫黄を両端にもつ有機分子にシリカ粒子を添加したもので製膜すると、防錆性を有することが分かりました(下図:JIS K2246人工指紋除去試験の結果;未処理:錆あり,処理:錆なし)。

 今後は、防錆性の発現機構の解明や高性能化を図り、業界での活用を目指します。


人工指紋除去試験(左:未処理 右:処理)

 

担当:化学食品部 嶋田一裕(しまだかずひろ)

専門:分析科学、界面化学

一言:石川から新たな防錆技術を発信します。