微生物を用いた土壌浄化技術
〜環境に優しい浄化技術、微生物の力を利用して〜


 平成15年に土壌汚染対策法が施行され、特定施設の土地を住宅地等に転用する場合、土壌を調査し、汚染が認められた場合、汚染の除去が必要となりました。これを受け、環境ビジネスでは、工場跡地などの土壌について、調査、分析、浄化修復等の市場が活発化してきています。
  汚染土壌の浄化には、土壌洗浄法、化学的酸化法、土壌ガス吸引法など様々な手法が開発されていますが、近年は、微生物を利用した浄化手法も開発されてきています。微生物を用いた浄化手法は、土壌を処理施設に運搬せずに浄化できることや、大がかりな土木工事が必要ないことなどから、比較的低コストで浄化することが可能です。このようなことから、微生物を活用した浄化が年々注目を浴びてきています(図1)。
  微生物は、土壌汚染の主な原因である揮発性有機化合物*や油を分解、無害化する能力を持っています。土壌を酸素の少ない状態に保つことにより、ある種の微生物が揮発性有機化合物を二酸化炭素など無害な物質に分解します。また、油の分解では、栄養剤を加えることにより、微生物が油を二酸化炭素と水に分解します。さらには、ダイオキシンやPCBのような猛毒物質を分解する微生物も存在し、今後の実用化が期待されています。
  微生物による浄化手法には、汚染土壌に存在する在来菌を活性化する方法と、汚染物質をよく分解する微生物を外部から持ち込む方法があります。しかし、外部から微生物を持ち込むと、在来菌やその他生態系へ影響をおよぼす可能性があるとの理由から、今までは積極的に用いられてきませんでした。
  そこで、経済産業省と環境省は、微生物を用いた環境浄化事業の一層の健全な発展と、利用拡大を通じた環境保全を目的に、バイオレメディエーション**利用指針を今年策定しました。この指針では、安全性評価手法と管理手法のための基本的要件を示しています。指針が策定されたことにより、より一層、微生物を用いた環境浄化技術が発展すると思われます。
  工業試験場では、これまでに微生物を活用した廃油処理技術の開発や、微生物の製剤化技術の開発に取り組んできました。微生物を用いた廃油処理技術の開発では、新潟県の油田周辺から油を効率よく分解する新規微生物を分離し(図2)、県内企業と共同で特許出願しました。この微生物は製品化され、厨房排水や油汚染土壌の浄化に利用されています。また、廃油を効率よく分解するバイオリアクター(図3)を開発し、動植物油、鉱物油などの分解状況を把握するとともに、より効果的な分解手法を検討してきました。さらに微生物の製剤化に関する研究では、従来の方法に比べ新規微生物の保存性を3,000倍以上高める条件を見いだし、設備の省力化に寄与してきました。
  今年度からは、微生物を用いた土壌汚染物質の分解について研究を開始し、実用化可能な技術を開発することにより、県内の環境浄化企業の支援を行なっていきます。

図1 微生物を用いた油汚染土壌の修復現場 図2 新規微生物コロニー 図3 バイオリアクター


* トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンなど、電子部品の洗浄やドライクリーニングの溶剤等に用いられていた。
**微生物等の働きを利用して汚染物質を分解等することにより、土 壌、地下水等の環境汚染の浄化を図る技術。



担 当 化学食品部 井上智実 (いのうえともみ)
専門 微生物工学
一言 微生物の可能性は無限大です!



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