技術展望 遺伝子解析装置の自動化
−簡単に、速く、安全に、遺伝子情報を解析−

 ライフサイエンス分野は我が国の重点技術分野の一つに位置づけられています。その中でも遺伝子解析に関する技術は、遺伝子医療や遺伝子創薬に結びつく重要な技術であり、活発に研究開発が行われています。工業試験場では、地域におけるライフサイエンス分野の先導的な役割を担うべく、これまでに培ってきた自動化技術を活かし、遺伝子解析の自動化に取り組んでいます。
 遺伝子情報を解析する手法の一つにRLGS(注1)法と呼ばれるものがあります。これは、2次元電気泳動法の1種で遺伝子情報を解析するための優れた手法であり、電気泳動後のDNAの位置や大きさ(スポットパターン)を調べることで、遺伝子の異常の有無などを調べることができます。これにより、例えば癌など遺伝子が原因の疾病の診断を行うことが可能になります。しかし、RLGS法には(1)放射性同位元素の使用に伴う危険な作業があるため作業の実施が特定施設に限られる(2)作業が長時間にわたる(3)勘や経験を要し正確な作業には熟練が必要である、といった問題があり、これらはRLGS法による遺伝子情報解析の大きな妨げとなっていました。そこで、工業試験場ではこれらの問題を解決する以下の2つの装置の開発を行いました。
 DNA2次元電気泳動自動化装置はRLGS法の工程を自動で行う装置です。特に独自に開発した電気泳動用器具(ゲルカラム等)を使用してサンプルの注入等を機械化することにより、従来は手作業で行っていた工程を自動化することに成功しました。
 電気泳動パターン自動読み取り装置は、DNA2次元電気泳動自動化装置で作成した試料をスキャニングし、蛍光色素を高速・高感度に検出する装置です。試料中のDNAには目印として蛍光色素が結合しており、本装置で試料をスキャニングすることで、DNAのスポットパターンを可視化することができます。従来はDNAに目印として放射性同位元素を使用してX線フィルムに転写することでDNAスポットパターンを可視化していましたが、本装置を用いることで放射線同位元素は不要になり安全に作業を行うことができます。
 これらの装置は8月に神戸市で開催されたバイオビジネス国際フォーラム2003に出展し、来場者の大きな関心を集めました。また、石川県地域結集型共同研究事業「次世代型脳機能計測・診断支援技術の開発」において、本研究開発の成果を応用してバイオチップによる脳機能計測のための検出装置の開発を進めています。今後は読み取りの高感度化など装置の改良を図るとともに、遺伝子解析の強力なツールとして活用されるようPRを行っていきます。
 なお、本研究開発の一部は、NEDOの即効型地域新生コンソーシアム研究開発事業(プロジェクトリーダー:渡辺弥寿夫金沢工大教授 参加機関:金沢工大、金沢大、(株)コスモサミット、インテック・ウェブ・アンド・ゲノム・インフォマティクス(株)、(株)エンバイオテック・ラボラトリーズ、工業試験場)として行われたものです。

(注1)
薬剤処理したDNAに電圧をかけることによりDNAの性質ごとに分離させる方法です。一挙に数千点のDNA情報を得ることができます。

DNA2次元電気泳動自動化装置 電気泳動パターン自動読み取り装置
(バイオビジネス国際フォーラム2003において)

担 当 電子情報部 米沢裕司(よねざわゆうじ)
専門 画像処理、信号処理
一言 新技術・新製品の開発をぜひご一緒に!



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