機能性食品としてのイシル


 最近様々なメディアで,抗酸化性,活性酸素あるいは機能性食品といった言葉を見かける機会が多いと思います。ここ数年健康食ブームもあり,「食と健康」という観点から食品の機能性に関する研究が盛んになりました。
 ここでは,特に抗酸化性を持つ機能性食品について紹介します。


1.機能性食品
 1980年代後半から,三次機能という新しい食品の分類により研究が進められるようになりました。一次と二次機能とは,それぞれ食品の栄養と嗜好に関する機能です。これに対して三次機能とは,生体調節機能から病気を予防する機能のことで,最近急速に研究が進んでいます。様々な食品中に様々な生体調節機能を持つ物質が見いだされ,病気予防への効果が報告されてきました。そして,これらの生体調節機能を持つ物質を含む食品が”機能性食品”と呼ばれています。すなわち,機能性食品とは「生体調節機能によって病気の予防に寄与する新食品」であり,現代風に姿を変えた「医食同源」といっても良いでしょう。

2.活性酸素と抗酸化性物質
 人間の体内では体外から侵入してきた細菌や,ウィルスに対処するため,酸素をより反応性の高い活性酸素に変え,生体を維持しています。ところが現代人は,食生活の変化,ストレスなどが原因で,体内に必要以上の活性酸素が発生してしまう事が指摘されるようになりました。さらに,この活性酸素は動脈硬化,糖尿病,ガン,痴呆症など様々な病気の原因と密接に関係していることが明らかになりました。そこで,この活性酸素の作用を体内で抑えてくれる物質として注目を集めてきたのが抗酸化性物質です。特に赤ワインの色素(アントシアニン),お茶のポリフェノール(カテキン)等は有名になりました。


3.イシルの抗酸化性
 工業試験場では,能登で作られている石川県の伝統食品「イシル」(図1)について研究を進めてきました。イシルはイカやイワシを原料として,それらに食塩を加え1〜2年間熟成させて造ります。その過程でイシルの搾り粕に含まれる脂肪分を調べたところ,長期間経過しているにもかかわらず,ほとんど酸化されていないことが明らかになりました。そこで,イシルには酸化を防ぐ物質が含まれるのではないかと考え,イシルの抗酸化性の検討を行いました。
 図2に示すようにリノール酸(酸化しやすい脂肪酸)に何も加えないと 100%酸化してしまうのに対し,イカやイワシのイシルを添加すると,リノール酸の酸化が20%以下に抑えられることが認められました。すなわち,イシルにも抗酸化性物質の存在が確認でき,機能性食品としてのイシルの価値が高まりました。
 今後も,工業試験場ではイシルの機能性について広く検討を行って行く予定です。
図1 能登のイシル
図2 イシルの抗酸化性



  担 当 食品加工技術研究室 道畠 俊英

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