1. 異種金属材料を用いた溶接構造物の開発

    6.1 サンプル加工
     溶接加工業22社に対して、加工条件を指示しないで異種金属材料のサンプル加工(S43CとSS400)を行った。図13に溶接加工サンプルの概略を示す。溶接加工終了後、引張試験片、曲げ試験片、組織試験片を採取し、それぞれの試験を行った。図14は、非破壊試験(X線探傷試験、超音波探傷試験)で欠陥の有無や大きさを調べた結果を示す。

    図13 溶接加工サンプルの概略
    図14 溶接欠陥総長さの比較

    図2 鉄含有量と促進熱水試験による色差の変化
     この結果、試料長さ150mmに対して、各欠陥の長さを加えた欠陥総長さは、20〜30mm内に納まっていたものが、7件(30%)と少なかった。特に欠陥個所は、溶接始端部と終端部に集中し、全体の47%を占めており、初層時の溶込み不足が61%発生していた。
     この原因には、溶接条件や作業姿勢(トーチ角等)の影響が大きく起因するものと考える。また溶接条件で大きなウェイトを占める電流と電圧の関係は、各企業によって異なり、電流では100〜250A、電圧20〜30Vの範囲であった。溶接加工では、この電流と電圧の関係が溶込み不足や融合不良等の欠陥に大きな影響を及ぼすことから3)、十分に留意する必要がある。
     図15は、溶接ビードの外観を示したものでが、電流値が小さいとビードは凸状となり、電流値が大きくなると扁平なビード形状となっている。

    6.2 ステンレス鋼と炭素鋼の溶接
     異種金属材料の溶接実験に参加した5社に対し、ステンレス(SUS304)と一般構造用炭素鋼(SS400)及びステンレス鋼同士の溶接加工を行った。強度試験を行った結果を図16に示す。図中の横線はSS材、SUS材の引張強度(JIS)を示す。通常SS材の強度を上回ることが絶対条件となるが、NO.4〜5の場合溶接欠陥の存在により強度が大きく低下している。実験で使用した電流と電圧の関係を図17に示す。図中の斜線は、電流と電圧の関係から算出した最適範囲であるが、図16で示したNO.4、5の場合、この条件からはずれていた。
     図18に溶接部の組織写真を示す。黒いネット状又は針状を呈しているのがフェライト相で、白色部がオーステナイト相である。図18のフェライト含有量を面積率で求めると20〜35%であった。フェライトの存在は、溶接割れを抑制するために5〜10%程度含有させることが有効であると言われている。4) このように高電流条件で溶接すると、アーク力が大きくなり、それに伴って希釈率が増大する。このため材質劣化等が生じることになり、機械的特性に影響を及ぼすため注意を要する。

    図16 溶接強度試験結果
    図17 溶接電流と電圧の関係
    図18 溶接境界部の金属組織(SUS側)

    6.3 実製品での溶接実証試験

    図19 溶接断面のマクロ組織  建設機械部品に多く使われているクロムモリブンデン鋼(SCM)は、焼入れ性が高いため溶接時に溶接割れや熱影響部の材質劣化が問題となっている。このため、この材料の溶接性を調べることを目的として、SCM420とSS400(厚さ9mm)の異種金属材料の溶接について、電流を変化させて実験を行った。溶接電流が120Aの場合の溶接断面マクロ組織を図19に示す。この場合、熱影響層幅は1.5〜2mmとなっていた。80Aになると1.0〜1.3mmとなり、電流値を小さくすることにより熱影響層幅を抑制することが可能である。この熱影響層近傍の最高硬さ分布(Hmv)を測定すると、SS側では200Hmvであるが、SCM420側になると400Hmvと大きくなる。このことは、溶接金属部と母材(SCM、SS)との境界部近傍の金属組織が粗大化することによって、強度不足や溶接割れ(延性低下)を生じやすくなるので、予熱・後熱処理を行う必要があるものと思われる。
     また熱影響層を小さくするには、溶接入熱量を最小に押さえる必要がある。しかし溶接作業者によっては、アーク切れが生じやすく、ビード間の融合不良さらに溶接ビード外観が荒れた状態となるので注意を要する。

  2. 人材養成及び情報提供

     設計支援システムによる構造解析・機構解析や加工機械の評価技術、それに生産加工技術、精密測定技術等について、講演会や実習等を開催した(図20)。特に構造解析技術については、企業の設計技術者を工業試験場に研修生として受け入れ、自社製品を対象に強度解析や振動解析法について、実習を行った。生産技術では、本事業のテーマである高硬度材料の切削加工技術や異種金属材料の溶接について、加工実験の進捗状況に応じて開催した。
     また本事業で作製した加工物や内容等を、小松鉄工機器協同組合として「機械見本市”MEX97」に展示した。展示品は、焼入れ鋼の切削加工部品や異種金属材の溶接加工部品などの加工品やパネル展示のほか、溶接金属を応用した金属アート品等を作製し、出展した(図21)。

    図20 実習風景(精密測定機器の取扱い)
    図21 見本市出展レイアウト

  3. 結  言

     小松地域に集積した機械加工業界に対し、製品の「設計・加工・検査」に関する総合的な技術力を向上させ、加工提案型企業への移行を促すための指導事業を行い、次の成果を得ることができた。

    1. 構造解析システムの活用により、製品機能を試作前に確認することができ、大幅な設計の合理化が可能となった。
    2. CBN工具利用による難削材の高精度加工技術及びステンレス鋼と鋼材の異種金属材料の溶接技術が導入できた。
    3. 研修会の開催により、企業技術者の精密測定技術や評価技術の高度化が図れた。

    謝  辞
     本事業を遂行するにあたり、ご協力いただいた金沢大学工学部 教授 北川和夫氏、金沢工業大学 教授 新谷一博氏、技術アドバイザー田中和郎氏に感謝します。

     
    参考文献

    1. 巨匠の星 竹内明太郎伝:コマツ竹内明太郎中興の 祖伝記、1996.
    2. 溶接技術検定委員会編:ステンレス鋼溶接技術検定 試験実施規則.1989.(社)日本溶接協会.
    3. 木原博:現代溶接工学.オーム社.1960.
    4. 溶接学会編:溶接材料の選定.溶接・接合便覧.丸 善 1990.


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