小松地域建設機械製造業の活性化支援
機械電子部 嶺蔭士朗・廣崎憲一・大浦利夫・梅田章

 本県建設機械を中心として、小松地域に集積した機械加工業界に対し、製品の「設計・加工・組立・検査」に関する総合的な技術力を向上させ、加工提案型企業への移行を促すための支援を行った。事業推進には、地域企業からなる研究会を発足させ、(1)構造解析システム(FEM)による設計支援、(2)新加工技術の導入支援(難削材の切削および異種金属材料の溶接)、それにB精密測定や評価技術等の研修会を開催した。主な結果を以下に記す。
(1)構造解析システムの活用により、製品機能を製品試作前に確認することができ、大幅な設計の合理化が可能となった。
(2)CBN工具利用による難削材の高精度加工技術及びステンレスと鋼材の異種金属材料の溶接技術が導入できた。
(3)研修会の開催により、企業技術者の精密測定技術や評価技術の高度化が図れた。
キーワード:FEM、建設機械、CBN、ステンレス、セルフシールドアーク溶接、異種金属材料

  1. 緒言

     小松市は、機械金属業を基幹産業として経済基盤を整え、石川県第二の中核都市として発展を遂げてきた。とりわけ大正十年に小松で産声を上げた小松製作所(略称コマツ)がこの地に誕生し、建設機械を中心とした機械金属業の裾野が広がっている。1)
     しかしながら、その多くは親企業からの指示(出図)形態となっていることや、加工機械、加工技術が建設機械用に特化していることなどから、他分野・他業界の高付加価値製品への取り組みが遅れていた。
     一方、景気低迷が長期化している中で、産業構造のグローバル化とともに空洞化現象が加速的に進み、新規分野への参入を強いられているのが現状である。こうした状況を克服し、当地域の活性化を図るためには、信頼性の高い生産体制を確立し、中核企業として自立化を目指す必要がある。このため平成5〜9年度の5ヶ年計画で小松地域建設機械製造業活性化支援事業(国庫補助事業)を実施し、「設計・加工・検査」の総合的な技術力を向上することにより提案型の受注生産形態(サイマル方式)の促進を目指した。以下にその内容について報告する。

  2. 事業体制と事業内容

     小松鉄工機器協同組合内に、傘下企業12社と工業試験場で構成した小松SS(精密測定)技術研究会を新たに設置した(図1)。
     また、同研究会には切削・溶接の二部会を設け、(1)設計システムを用いた最適設計/機構設計、(2)加工技術実態調査、(3)焼入れ鋼部品の高効率加工の開発、(4)異種金属材料を用いた溶接構造物の開発、(5)人材育成及び情報提供を行った。

    図1 事業推進体制および事業内容

  3. 設計システムを用いた最適構造・機構設計

     従来の製品開発では、図2に示すように製品製作後に応力、振動、熱等の性能試験を行い、改良点を設計にフィードバックしながら機能・性能を高める方法が取られていた。この方法では、最終製品までに幾度となく製品試作を繰り返さなければならず、開発に莫大なコストと時間を要していた。近年、製品開発を効率的に行うため、コンピュータ上で応力、振動、熱解析等を行い、製品試作前に欠陥を見つけだして、対策を行う構造解析システム(FEM)が利用されるようになってきた。このため当地域の設計技術者を、工業試験場に研修生として受け入れ、最適な構造・機構設計を行う技術指導を行った。
     本システムを用いて建設機械用部品の強度を検討した事例を図3に示す。解析の結果,外部から応力(3kN)を受けると、接合部付近に応力が集中し、使用材料の許容応力を上回ることが確認できた。対策として、応力集中を緩和するため補強板を付加して、再び解析を行った。この結果、製品強度を20%以上アップさせることができ、実用上問題がないことが判った。

    図2 従来法との比較
    図3 建設部品の補強対策例

  4. 加工技術の実態調査

    図4 アンケート調査結果  小松鉄工機器協同組合の傘下企業に対し、加工技術の実態を把握するためアンケート調査を実施した。調査は、同地域で最も多い業種の切削と溶接加工業について行った。アンケート回収率は、切削加工業が約82%(55社中45社回答)、溶接加工業が約75%(31社中23社回答)であった。切削加工業では、高精度加工(重要部品には焼入れ鋼が多く使われている)が要求されており、回答企業の60%以上が焼入れ鋼の切削経験を持っている(図4)。また、焼入れ鋼の加工では、H7級以上の寸法公差で、表面粗さ6.3μm以上の精度が要求されている。切削加工上の問題点についての問いでは、工具の寿命が短いと回答した企業が、35%とトップを占め、次いで表面粗さが管理できないが15%となっている。このことから、実験対象を問題点が多い焼入れ鋼に絞り、高精度加工へのトライを行うことにした。
     一方、溶接加工業では、ロボット保有企業が約78%を占め、自動化が進んでいるが、検査方法は依然として目視検査がほとんどを占めている。また高張力鋼と一般構造用炭素鋼などの異種金属材料の溶接も行われており、約78%が経験をもっていると回答している。これらの検査は、同種溶接材料とは異なり、非破壊試験(磁気探傷試験機や超音波探傷試験機)機器を用いた検査が行われている。溶接加工の技術上の問題点として、溶接歪みやブローホールなどが上位を占めている。
     同地域では、まだ量的に少ないが、今後ステンレスと一般構造用炭素鋼の異種金属材料の溶接は、食品加工機械などに用途が拡大される分野であることから、今回の実験では、ステンレスや合金鋼等と炭素鋼の異種金属材料の溶接方法と検査について検討を加えることにした。

  5. 焼入れ鋼部品の高効率加工技術の開発

    5.1 サンプル加工
     サンプル加工参加企業に、切削条件及び加工工具等の指定を行わずに、図5に示すサンプル加工を行ってもらった。加工条件の設定は、各社さまざまな設定を行っており、約50%が推奨条件から外れていた。これは表面粗さの向上を考慮したものと推察される。
     また、生材加工の仕上げには全社サーメット工具を使用し、焼入れ鋼では2/3の企業がCBN工具を使用していた。加工品の表面粗さは、生材加工で6.3μmの指示を満足したものが約71%、焼入れ鋼では約92%であった。真円度は、生材加工が約98%、焼入れ鋼では100%が3μmを達成しており、円筒度についても4μm以下を達成したものは、生材加工では約90%、焼入れ鋼では約92%であった。しかし寸法精度は許容精度(37.990±0.01)内に入ったものが、生材加工では約56%、焼入れ鋼では約52%と改善の余地を残した。また、企業の検査能力を知るため、加工後の寸法測定を行ってもらい、精密測定機での測定値と比較を行った。
     この結果、3μm以内の測定誤差に納まったものが生材加工で約65%、焼入れ鋼では54%しかなく測定具の管理や取扱い上の問題点があることがわかった。
     これらの結果を受けて、今後更に高精度化を促進するため、企業技術者に対して切削理論、実習等の研修会を開催した。研修会終了後、再度生材加工についてサンプル加工実験を行った結果を図6に示す。表面粗さについては指示値に対する達成率が約20%向上し90%に、寸法精度が約28%向上し72%に高まった。しかし、測定誤差については約10%向上したにとどまり、72%の達成率であった。

    図5 切削加工サンプルの概略
    図6 生材加工の改善例

    5.2 切削実験
     焼入れ鋼の実験希望企業9社により加工実験を行った。切削条件を表1に示し、工具摩耗の観察例を図7に示す。

    表1 切削条件
    被 削 材S43C(表面焼入れ:HRC54〜56)

    チップCBN(BN250)、ノーズ半径0.8mm
    ホルダ□25mm、PTTNR−2525 │
    加工条件V=120m/min,f=0.05mm/rev、t=0.2mm
    その他乾式切削、時間:70min、距離:9km

     その結果、逃げ面摩耗幅(VB)は70分切削で、0.12〜0.15mmであった。一般にCBN工具の摩耗幅が0.2mm前後に達したとき、再研磨加工が行われることから、今回の切削実験では、まだ20〜30分の切削が可能であると予想された。しかし中には、約20分の切削時間が経過した時点でビビリが発生し、チッピングを生じたものがあった(1社)。この原因には、工作機械の性能やチャック保持力に起因していることが考えられることから、工作機械の性能を十分に把握しておく必要があるものと思われる。表面粗さの測定結果を図8に示すが、今回の実験では、70分経過後もほぼ6.3μmとなっていた。ただし、一部表面粗さが逆に改善されたものがあった。
     これはBN砥粒の脱落により、新しい刃先が構成されたことによるものと推察される。このことは、工具刃先が後退することを意味しており、検査には留意する必要がある。図9は、真円度の測定結果を示すが70分経過後もほぼ2〜3μmであった。これは、表面粗さの影響を多少受けるが、工作機械の性能(回転精度や加工物の突出し長さなど)に大きく支配されるものと思われる。

    図7 CBN工具の摩耗状態
    図8 切削時間と表面粗さ
    図9 表面粗さと真円度測定結果

    5.3 実製品での切削実証試験

    5.3.1 外径切削加工例
    サンプル加工の実験結果を基に、工場ラインに流れているリング製品(SCM415H:φ140×L22mm,RC52〜58)を、CBN工具を用いて外径切削を行った。なお、この製品の表面粗さの許容精度は、3.2μm以内である。この最適条件を見出すため、切削速度を150m/min、切込み0.1mmと固定し、切削送りを0.1、0.02、0.05mm/revの3種について実験を行った。
     その結果を図10に示すが、切削送りが0.02、0.05mm/revでは、10個加工した場合でも3.2以下μmとなり,十分に実用に供する結果が得れた。ただし、図11に工具摩耗の測定結果を示すが、切削送りが小さくなると工具摩耗が大きくなることから、この場合切削送り0.05mm/revが最適条件と考えられる。

    図10 切削送りと表面粗さ
    図11 切削送りと逃げ面摩耗幅

    5.3.2 断続切削加工例

    図12 実製品(デフケース)の外観  図12は、実製品のデフケース(SCM415H:φ43〜70、HRC58〜60)であり、端面の断続切削加工である。加工条件は、CBN工具を用い、切削速度100〜120m/min、送り0.1〜0.15mm/rev、切込み0.1〜0.2mmで乾式切削で行った。この結果、表面粗さは最大高さが3.2μm、十点平均粗さが2.8μmとなり、均一化した粗さ波形を得ることができた。また真円度の測定結果も2.4〜4.4μmにすることができ、十分に実用化が可能であり、これまでの研削加工を切削加工に置き換えることが可能となった。このほか、ナットの端面加工や歯車の内面加工の実製品加工を行ったが、いずれも好結果が得られた。


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