人造大理石の耐候性評価
製品科学部 笠森正人・舟田義則・粟津薫

 人造大理石は浴槽や洗面化粧台に多く利用されているが,最近では採光を良くした場所への設置により,直射日光が当たる環境下での利用も増えている。また,その高級感のために様々な製品への応用も検討され,過酷な使用環境への対応が求められてきている。しかし,人造大理石の耐光性または耐候性による劣化を評価した研究はほとんどないのが実状である。本研究では,不飽和ポリエステル系とアクリル系の3種類の人造大理石について,促進耐候性試験機を用いて,色差と光沢によって評価を行った。いずれの人造大理石においても色差は紫外線照射時間に対して増大したが,アクリル系人造大理石では短,中時間においては色差は小さいが,長時間になると不飽和ポリエステル系に近づいた。また,アクリル系では水の影響は長時間においてもほとんどなく,光沢も変化しなかった。
キーワード:人造大理石,耐候性,色差,光沢

  1. 緒言

     代表的な繊維強化プラスチックFRP製品である浴槽には人造大理石の使用が増加している1)。従来,人造大理石は浴槽や洗面化粧台に多く使用されてきており,熱水による劣化に対しては多くの研究が行われてきている2−10)。しかし,快適な住環境への要望から直射日光が当たるような明るい環境下での使用の増加や,新たな応用分野への展開にも期待が高まってきているが,人造大理石の紫外線による劣化に関する研究は少ないのが実状である。
     前報10)では人造大理石の熱水による劣化についての促進評価方法を提案したが,本研究では促進耐候性試験機を用いて,3種類の人造大理石により,異なる水の噴霧条件で短期試験を行い,紫外線と水の影響について検討した。さらに,一般のプラスチックも含めた長期の耐候性試験を行い,人造大理石の耐候性試験の基礎データを得るとともに,耐候性に優れた人造大理石について検討した。

  2. 実験

    2.1 供試材料
     試料には前報と同じく,表に示すようにマトリックスに不飽和ポリエステル樹脂(色:ピンク,白)とアクリル樹脂(色:白)を用い,充填材にガラスフリットを用いた合計3種類の人造大理石を使用した。なお,前者にはゲルコート層があり注型法により,後者にはゲルコート層は無く,型押し法により作製した。作製した試料はいずれも20mm角に切り出して試験試料とした10)。また,比較のために一般のプラスチックとして,PBT2種類およびPMMA2種類,ABS3種類,PPO1種類,PP1種類の計9種類についても長期試験に使用した。
    表1 人造大理石の組成
     不飽和ポリエステル樹脂系人造大理石アクリル樹脂系人造大理石
    白、ピンク
    マトリックステレ系不飽和ポリエステル樹脂
    100部
    アクリル樹脂
    100部
    充填材ガラスフリット
    180〜200部
    ガラスフリット
    180〜200部
    ゲルコートビニルエステル樹脂
    製造方法注型法型押し法
    厚さ9 mm13 mm

    2.2 促進耐候性試験
     紫外線と水による促進劣化試験はサンシャインウェザーメータ(スガ試験機(株) WEL-SUN-HC)を用い,水の噴霧条件として,噴霧無し(耐光性試験),紫外線照射時間120分に対して水の噴霧18分間(間欠噴霧試験),常時水の噴霧(連続噴霧試験)の3条件の試験をそれぞれ120時間行った。また,短期試験の10倍を超える長期耐候性試験としては,紫外線照射時間60分に対して水噴霧12分間の間欠噴霧試験も行った。但し,試料に水が噴霧されるのは,耐候性試験機の試料を取り付けたドラムが1周するに要する1分間に約1秒間である。なお,ブラックパネル温度は63℃とした。

    2.3 劣化の評価
     試料の表面変化は前報10)と同じく,JIS Z8729に基づいて,L*a*b*表色系をカラースペクトルメータ(日本電色工業(株) SZ-Σ-80)を用いて測色し色差を,またJIS Z8741に基づきデジタル光沢計(スガ試験機(株) GK-60D)を用いて光沢を測定して,劣化の評価を行った。

  3. 短期促進耐候性試験

     3種類の人造大理石の色差の変化を図1〜3に,各試験方法における変化を図4〜6にそれぞれ示す。図の横軸には紫外線照射時間と紫外線照射量を併せて標記した。いずれの試験方法によっても,また,各人造大理石においても紫外線照射時間が長くなるほど,つまり紫外線照射量が多くなるほど色差は大きくなり,紫外線による劣化が進行している。特に不飽和ポリエステル系人造大理石(白)の場合にはいずれの試験方法においても他の試料よりも色差が大きく,紫外線照射24時間以降に色差の変化が急激に大きくなっている。不飽和ポリエステル系人造大理石(ピンク)においては,紫外線照射48時間以降に色差が大きくなる。特に,水の噴霧が無い耐光試験において色差は大きくなっている。これは水の噴霧により試料表面の温度上昇が抑制され,劣化の進行が遅れたのではないかと考えられる。しかし,不飽和ポリエステル系(白)では常時水が噴霧された場合と色差の変化は同じであり,さらに確認が必要と思われる。一方,アクリル系人造大理石ではばらつきが大きいものの紫外線による色差の変化は不飽和ポリエステル系に比べて小さい傾向が見られる。

    図1 不飽和ポリエステル系人造大理石(ピンク)の耐候性試験による色差の変化
    図2 不飽和ポリエステル系人造大理石(白)の耐候性試験による色差の変化
    図3 アクリル系人造大理石(白)の耐候性試験による色差の変化
    図4 人造大理石の促進耐光性試験による色差の変化
    図5 人造大理石の促進耐候性試験(間欠噴霧)による色差の変化
    図6 人造大理石の促進耐候性試験(連続噴霧)による色差の変化

     各試験方法における光沢の変化を図7〜9に示す。ゲルコート層を持つ不飽和ポリエステル系では表面が平滑で光沢が大きい。アクリル系ではゲルコート層を持たず,今回用いた人造大理石では型の影響で表面が平滑でないために光沢は小さく,ばらつきも大きい。しかし,いずれの人造大理石においても耐候性試験による光沢の変化はほとんどなく,紫外線照射や試験方法による差はほとんど見られないことから,この紫外線照射時間範囲において紫外線や水は光沢に影響しないと考えられる。

    図7 人造大理石の促進耐光性試験による光沢の変化
    図8 人造大理石の促進耐候性試験(間欠噴霧)による光沢の変化
    図9 人造大理石の促進耐候性試験(連続噴霧)による光沢の変化

     ゲルコート層のある不飽和ポリエステル系では光沢に変化が無く,色差のみに変化が生じることは,透明なゲルコート層は紫外線には劣化されず,ゲルコート層を透過した紫外線により,ゲルコート層の下にある人造大理石本体が劣化したと考えられる。一方,アクリル系の場合は紫外線や水によっても光沢を低下させるような表面形状の劣化は生ぜず,不飽和ポリエステル系と同じ色の変化による劣化が観察されただけである。これらの結果は熱水による劣化10)とほとんど同じ傾向であり,劣化はまず色の変化から確認できた。熱水による劣化には樹脂そのものの劣化も進行するが,充填材との界面にも影響することが知られており9),紫外線による劣化にも樹脂そのものの劣化の他に,充填材であるガラスフリットとの界面の劣化をも考慮する必要がある。
     ところで,不飽和ポリエステル系(ピンク)では,紫外線による劣化に温度の影響があると考えられるので,前報と同じく時間−温度換算則10−18)をピンクの人造大理石に適用した結果を図10に示す。図の右が耐光性試験を基準とし,他の耐候性試験の結果を対数時間軸に沿って基準よりも左にずらしたものである。このように滑らかな一本のマスター曲線が得られたことから,時間−温度換算則が成立する可能性が示唆される。白では水噴霧による温度低下との関連が不明確で,アクリル系ではばらつきが大きく,滑らかなマスター曲線は得られなかった。今回は水噴霧による温度低下はブラックパネルでは確認されたものの,試料表面の温度ではなく,温度の基準をどこに取るかが問題であり,今後の検討が必要である。

    図10 不飽和ポリエステル系人造大理石(ピンク)の耐候性試験による色差の変化


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