3.2 オートクレーブによる劣化促進処理試験
オートクレーブを用いた熱水による処理試験では,小形分解容器を用いた試料1と同じく,試料2も時間の経過や温度の上昇にともない,GFRP部分の透明性は低下した。さらに,処理時間が長く,処理温度が高くなるとゲルコートにもクラックが生じてきた。
この時の重量と曲げ強度の変化を図10,11に示す。
各プロットは5点の平均値である。この場合も小形分解容器を用いた場合と同じく時間−温度換算則が成立した。100℃,1000hourにおいて小形分解容器と比較すると,重量減少は大きく,強度低下は少ない。これは強化繊維にガラス繊維マットを用いたためと考えられる。また,時間−温度移動因子aTo(T)と温度1/Tとの関係を弾性率やシャルピー衝撃値の結果も含めて図12に示すが,両者は試験方法によってばらつきはあるものの一本の直線に近似でき,活性化エネルギΔHは57kJ/molと求まった。試験方法や試料が異なっても同じ形式の劣化が生じていることが示唆された18),19)。
図10 オートクレーブを用いた熱水処理による重量変化
図11 オートクレーブを用いた熱水処理による強度変化
図12 オートクレーブを用いた熱水処理による時間−温度移動因子と温度との関係
小形分解容器やオートクレーブを用いた熱水による重量変化のマスター曲線から,長時間側では重量の減少する速度に低下の兆しが伺われる。この温度範囲における熱水による処理には限界があると考えられる。処理時間の短縮からもアルカリの添加が必要である。しかし,さらに温度が高い超臨界状態では,樹脂分を完全に加水分解できることから20),アルカリを添加せずとも処理が可能と期待される。
3.3 アルカリ濃度による影響
実際にGFRPの処理を考える場合には,処理温度を高くしたり,処理時間を長くすることは困難と思われる。そこで,処理温度は90℃として,アルカリ水溶液の濃度を変化させて検討した。
図13の左側は水酸化ナトリウム水溶液の濃度を変えて処理した場合のGFRPの湿潤時における曲げ強度の結果を示した図である。
処理時間の経過および濃度の上昇にともない強度が低下し,時間および濃度依存性を示している。ここで,時間−温度換算則の場合と同様に左図の0wt%(熱水)を濃度基準Coとして,横軸の対数時間軸に沿って互いに重なるように平行移動すると,右図に示すような滑らかな一本のマスター曲線が得られた。このことよりGFRPの水酸化ナトリウム水溶液を用いた処理において,強度の時間依存性および濃度依存性の間には時間−濃度換算則が成立するものと考えられる.この結果は弾性率や重量の変化,および水酸化カリウム水溶液を用いた場合においても同様であった19)。すなわち,アルカリ水溶液の濃度を濃くすることによっても処理時間を短縮できる。
この平行移動の際のアルカリ水溶液による時間−濃度移動因子aCo(C)とモル濃度の関係を図14に示すが,アルカリの種類が異なっても,移動因子の対数とモル濃度の対数との関係は同じ直線で近似できた。
図13 水酸化ナトリウム水溶液の処理濃度による強度変化
図14 時間−濃度移動因子と濃度との関係
3.4 添加剤の影響
図15 各種溶液、添加剤による重量および強度の変化
アルカリの濃度を高くしないで処理時間の短縮を図るために,水熱反応やポリエステル繊維のアルカリ減量21)を参考にして第3成分の添加を試みた19)。
未処理のGFRPの強度と重量を基準として,各種薬品添加による湿潤時の曲げ強度および湿潤重量,乾燥重量の比を図15に示す。比較のために熱水やアルカリと同濃度の酸による処理の結果も一緒に示すが,酸では硫酸よりも硝酸が劣化は進み,アルカリは酸よりも劣化が進んでいる。アルカリでは水酸化ナトリウムによる劣化が水酸化カリウムやアンモニアよりも進んでいる。そこで,5wt%の水酸化ナトリウムを基準として,各種の有機溶媒(10ml)や無機アンモニウム塩(NH4+として0.1mol/l),第4アンモニウム塩(QAS1:CTMAB 0.25g,QAS2:日華化学工業製ネオレートNCB 2.5ml,QAS3:日華化学工業製サンレタルダーPN 2.5ml)を添加した。それぞれ効果に大小があるものの,第4アンモニウム塩を添加した場合は強度低下および湿潤重量の増加,乾燥重量の減少が大きくなる傾向を示している。特にQAS2を用いた場合には処理溶液にオイル状の液滴やゲルコート面に膨れを認めた。これらの結果はアルカリを水酸化カリウムに変えた場合も効果に多少の変化があるもののほぼ同じ傾向であった。有機溶剤の場合は溶剤の気散が激しく開放系での評価は困難と考えられる。よって,アルカリ濃度を高くするだけではなく,第4級アンモニウム塩を加えることにより処理時間を短縮できる。
- 結言
GFRPの劣化を利用した処理方法および耐久性評価について検討したところ,以下の結論が得られた。
- 熱水処理では,処理時間が長いほど,また処理温度が高いほどGFRPの劣化は促進され,試験方法が変わっても劣化の進行には影響しないので,処理方法としての可能性がある。また,フタル酸も回収されるので,ケミカルリサイクルとしても有望と思われる。
- アルカリ水溶液ではGFRPの劣化が熱水よりも加速され,処理方法としては熱水よりも優れている。
- アルカリ水溶液の濃度を上げたり,第4級アンモニウム塩を添加するとGFRPの劣化はさらに加速され,実際の処理を考える場合に有効である。
- 熱水やアルカリによるGFRPの劣化において,時間−温度換算則が成立したことから,GFRPの使用環境における化学的な劣化に対する耐久性を短時間に評価できる。
また,時間−濃度換算則の成立も示唆されたが,今後の検討が必要である。さらにFRP廃棄物の超臨界水による処理,および超臨界水処理水やアルカリ処理液からの分解物の回収を検討する必要がある。
謝辞
最後に,本研究を遂行するに当たり,貴重なご助言を頂いた金沢工業大学宮野靖教授および試料を提供して頂いたアムズ(株)技術開発部長宮本涼一氏,(株)井上プラスチック製作所社長井上徹氏にお礼申し上げます。
参考文献
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