GFRPの劣化を用いた処理と耐久性評価
製品科学部 笠森正人・舟田義則・粟津薫

 繊維強化プラスチックFRPは耐久性に優れ様々な環境で広く使用されているが,その耐久性の良さが反対に災いして,廃棄物となった場合の処理が困難であるとの認識がある。しかし,FRPも使用するにつれて劣化が進行するが,量的にも多くまた広い分野に使用されているガラス繊維強化プラスチックGFRPはマトリックスに不飽和ポリエステル樹脂を用いているために,加水分解により劣化が生じることが知られている。
 本研究では,この不飽和ポリエステル樹脂の劣化に着目し,劣化を促進させることによりGFRP廃棄物処理への適応の可能性,およびこの劣化促進方法の耐久性評価への利用について検討した。その結果,熱水のみでは劣化は進むが処理には限界があった。アルカリを用いると処理方法として利用可能なことがわかった。また,劣化の進展は処理する時間や温度,アルカリ濃度に依存し,その間には時間−温度換算則および時間−濃度換算則が成立した。よって,これらの換算則を利用することによりGFRPの耐久性も短時間に評価できる。
キーワード:GFRP,廃棄物処理,劣化,加水分解,耐久性,時間依存性,温度依存性,濃度依存性

  1. 緒言

     繊維強化プラスチックFRPは軽量で高強度,耐久性に優れ,さらに成形し易いという特徴のために,住宅機材,船艇・船舶,車輌,タンク・容器,工業機材からスポーツ・レジャー用品,航空・宇宙機材まで複合材料として広く用いられている。その中でも使用量の多いガラス繊維強化プラスチックGFRPは浴槽や貯水タンク,浄化槽,スキーなどに使用され,私たちの生活に深く係わっている。このGFRPの耐久性の良さが災いして,廃棄物となった場合の処理が困難であるとの認識が強い1)。ところで,FRPも使用するにつれて劣化が進行するが,広い分野に使用されているGFRPはマトリックスに不飽和ポリエステル樹脂を用いているために,加水分解により劣化が生じることが知られている2−5)
     本研究では,この不飽和ポリエステル樹脂の劣化に着目し,劣化を促進させることによりGFRP廃棄物を処理する方法の可能性,およびこのときの劣化の進行からGFRPの耐久性評価について検討した。

  2. 実験

    2.1 供試材料
     試験には表1に示すハンドレーアップで成形した2種類のGFRP(マトリックス樹脂:オルソフタル酸系の不飽和ポリエステル樹脂,ガラス繊維:E−ガラスのクロスとマット)を用い,所定の寸法に切り出して試験片とした。
    表1 GFRPの組成と試験片寸法
     試料1試料2
    ガラス繊維日本板硝子製
    クロスREW580
    旭ファイバーグラス製
    チョップドストランドマット#360S
    積層枚数2プライ2プライ
    マトリックス樹脂日本触媒製
    エポラックG752-PTX
    武田薬品工業製
    ポリマール8276AP
    ゲルコート武田薬品工業製
    #8423
    試験片寸法30×10×1 mm100×15×3 mm

    2.2 劣化促進試験
     GFRPの加水分解による劣化を行うために,水およびアルカリとして水酸化ナトリウム水溶液,水酸化カリウム水溶液を用いた。
     GFRPの劣化促進は前報6)で人造大理石の劣化の促進評価に使用した機器を用いた。小形分解容器(容量30ml)には試料1を2本互い違いに入れ,純水または10wt%のアルカリ水溶液を25ml注入した。オートクレーブ(日東高圧製NU-10)には,試料2を5本入れた金網を内部に吊し,水を注入した。水またはアルカリの注入後に小形分解容器では100〜200℃において20min〜24hour,オートクレーブでは100〜250℃において1〜24hour保持してGFRPを劣化させた。
     また,アルカリ濃度と添加剤の影響を検討するために試料2を用いてアルカリ濃度を0〜30wt%に変化させ,90℃で所定時間の処理試験,および5wt%のアルカリ水溶液に各種添加剤を加えて90℃,4hourのビーカー試験も行った。なお,溶液量は250mlとした。

    2.3 劣化の評価
     劣化の進行状態は重量および曲げ強度,曲げ弾性率の変化により評価した。試料1,2の曲げ試験の条件はそれぞれ,支点間距離20mm,試験速度0.5mm/minと支点間距離50mm,試験速度2mm/minで3点曲げにより行った。

  3. 結果と考察

    3.1 小形分解容器による劣化促進処理試験
     小形分解容器を用いた熱水による処理試験では,時間の経過や温度の上昇にともない,透明性がなくなり白くガラス繊維が見えるようになった。また,樹脂表面にはクラックが発生してきた。試験片を取り出した後の処理水を乾燥させると結晶が生じ,赤外分光測定によりフタル酸であることが確認できた。水酸化ナトリウム水溶液においても時間が短く温度の低い範囲でガラス繊維が見えるようになり透明性が低下し,時間の経過や温度の上昇により樹脂は膨潤するとともに,ガラス繊維も損傷を受けていた。水酸化カリウム水溶液では短時間,低温では水酸化ナトリウム水溶液の場合と変わらないが,長時間,高温では樹脂分が溶解し,ガラス繊維だけが白く後に残った。
     熱水およびアルカリ水溶液による重量の変化を図1〜3,曲げ強度の変化を図4〜6のそれぞれ左図に示す。

    図1 熱水の処理温度と時間による重量変化
    図2 水酸化ナトリウム水溶液の処理温度と時間による重量変化
    図3 水酸化カリウム水溶液の処理温度と時間による重量変化
    図4 熱水の処理温度と時間による重量変化
    図5 水酸化ナトリウム水溶液の処理温度と時間による重量変化
    図6 水酸化カリウム水溶液の処理温度と時間による重量変化

    各プロットは4点の平均値である。重量についてみると,熱水の場合は200℃,24hourで,水酸化ナトリウム水溶液では200℃,2hourで15%程度の減少であったが,水酸化カリウム水溶液の場合は200℃,2hourで45%程度減少し,残った試料はガラス繊維だけであった。強度については,熱水の場合に200℃で24hour経過しても初期強度の約10%を保持しているが,アルカリ水溶液の場合には200℃,2hourでほぼ強度は測定できない程度に低下している。しかし,いずれの液を用いても重量や曲げ強度は時間の経過および温度の上昇にともない低下しており,時間および温度依存性がある7)
     そこで,GFRPの劣化挙動を検討するために,処理時間と処理温度による重量および強度の変化に時間−温度換算則8−17)を適用してみた。すなわち,これらの種々の温度における重量や強度の変化曲線を互いに重なるように,100℃を基準温度T0として横軸の対数時間軸に沿って平行移動させたところ,各図の右側に示すような滑らかな1本のマスター曲線が得られた。これより,GFRPの劣化による重量および強度の時間依存性と温度依存性の間には時間−温度換算則が成立する。これらのマスター曲線から,100℃の熱水では重量が15%減少するには約1000hour要するが,100℃のアルカリ水溶液では約10hourで済み,水酸化カリウム水溶液の場合には重量が45%減少するのに30hourで済むことが読み取れる。強度についても熱水の場合には100℃で1000hour経過してもまだ初期強度の約10%を保持するが,アルカリ水溶液では100℃で10hour要せずに強度がなくなることが読み取れる。また,曲げ弾性率についても同様の結果が得られた18)
     このように加水分解による劣化を加速すればGFRPの処理に利用可能であり,アルカリを用いることにより処理時間も短縮できる。さらに,時間−温度換算則が成立したことから,GFRPの劣化についても促進評価でき,短時間の試験で耐久性を把握することが可能である。
     重量や強度,弾性率の変化を移動させた際の移動量を時間−温度移動因子aTo(T)と絶対温度の逆数1/Tとの関係を図7〜9に示すが,両者は処理する液にかかわらず一本の直線に近似でき,活性化エネルギΔHが求められる。ΔHは熱水では56kJ/mol,水酸化ナトリウム水溶液で38kJ/mol,水酸化カリウム水溶液で40kJ/molとなり,アルカリを添加すると小さくなる。

    図7 熱水における時間−温度移動因子と温度との関係標準
    図8 水酸化ナトリウム水溶液における時間−温度移動因子と温度との関係標準
    図9 水酸化カリウム水溶液における時間−温度移動因子と温度との関係標準


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