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漆への硬度および耐光性向上に関する研究

■繊維生活部 ○梶井紀孝 江頭俊郎 藤島夕喜代

1.目 的
 黒漆は「漆黒」と呼ばれ,特有の優美さから重用されてきた。しかし,家具として利用した場合,器物を置いた跡や擦り傷が残る,直射日光で色が変わるといった問題を抱えてきた。
 本研究では,この漆の欠点を改善するために,平成20〜21年度に行った「ナノ粒子を用いた食器洗浄機対応漆器の開発」で培ったナノオーダーの無機粒子を漆と混練する技術を基礎として,さらに複数種類の無機粒子を組み合わせ,塗膜硬さと耐光性を持つ漆を開発する。

2.内 容
2.1 ナノ粒子の選定
 これまでの研究から,黒色化および変色防止に最も効果のあったナノオーダーの酸化亜鉛粒子を主として,さらに漆塗膜の硬度や耐光性の向上が見込まれる粒子を組み合わせた。また,漆への混練方法は,透漆と無機粒子を自転・公転ミキサーと三本ローラ式混練機で直接混練する方法,または高濃度の粒子配合液(マスターバッチ)を漆と混練する2つの方法で漆サンプルの作製を行った。
粒子の選定理由:種類(平均粒径)
・黒色化および変色防止:酸化亜鉛(20nm),カーボンブラック(20nm)
・耐光性の向上:酸化セリウム(10nm)
・硬度の向上:シリカ(25nm),アルミナ(20nm),アルミナ・シリカ合成珪藻土(7μm)
・粒子の分散向上:タルク(2.5μm),硫酸バリウム(0.75μm)

2.2 塗膜試料の作製
 漆に配合する粒子の種類と配合量を組み合せて,2つの混練方法で精製し,フラットブレードアプリケータ(100μm)で膜厚が均一な塗膜の試験試料を22種(従来の漆2種を含む)作製した。

2.3 塗膜評価
 各種塗膜試験は下記にて行った。
(1)硬度試験:ダイナミック硬度,鉛筆引っかき硬度試験
(2)摩耗性試験:テーバー式磨耗試験
(3)耐光性試験:キセノンウェザーメーターによる促進耐光性試験(288時間まで)後,測色(明度L*値の変化)および光沢度測定
(4)耐薬品性試験:エタノール,酢酸,洗剤原液

3.結 果
 各種塗膜試験による漆塗膜の性能比較を行い,特に試験の結果が良かった試料の配合条件を表1に示す。
 硬度向上に関しては,酸化亜鉛粒子2%とシリカ粒子溶液5%の配合により,ダイナミック硬度が1.6倍になった(図1)。引っかき硬度に関しては,酸化亜鉛粒子2%とアルミナ・シリカ粒子16%を直接混練する方法により,鉛筆硬度が4段階向上した(図2)。耐光性に関しては,酸化亜鉛粒子2%の配合により,耐光性試験288時間でのL*値(黒味)の変化が1/2に低減した(図3,図4)。よって,目的や用途に合わせた粒子配合が重要であることがわかった。
 また,従来の漆塗り家具・内装パネル製品と同じ塗装工程の塗装板(木製合板に下地・漆塗り)に,開発した漆を刷毛で塗り,黒漆と同等の優美な塗面が得ていることを確認した。
 今後は,本研究で得られた結果を基にして,さらに塗装工程(硬度の高い漆の上に傷が付きにくい漆を塗り重ねる等)を工夫することにより,総合的に性能の高い漆塗装について検討する予定である。

(表1 漆塗膜の試料表)
(図1 ダイナミック硬度)
(図2 鉛筆引っかき硬度)
(図3 耐光性試験による測色値)
(図4 耐光性試験による光沢度)