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熱電変換セラミックスの合成技術に関する研究

■化学食品部 ○豊田丈紫 佐々木直哉 嶋田一裕

1.目 的
 熱電発電はわずかな温度差を電気に変換できるため環境中の廃熱エネルギーを回収する技術として注目されている(図1)。熱電変換セラミックスは,大気環境下で安定であり材料コストが安価という利点から実用化へ向けた開発が進んでいる。一方で材料の合成には高温の熱処理が必要で依然として大量のエネルギーを消費することから,環境負荷の低い製造プロセスが求められている。そこで本研究では,省エネルギー化が期待される低温合成法を用いた熱電変換セラミックス材料の合成技術について検討を行った。

2.内 容
2.1 試料合成
 一般的なセラミックス熱電素子は,混合―プレス成型−焼結−粉砕の工程を数回繰り返す固相法(ブレークダウン)で得られる。一方,本研究で用いるクエン酸錯体法は液相沈澱法に属し,1m以下の微粉末を容易に得ることができる(図2)。本研究ではこのいわゆるビルドアップ手法を用いて,p型およびn型熱電変換材料として各々Ca2.7La0.3Co4O9,Ca0.9La0.1MnO3の材料合成を試みた。
 出発原料に,各々Ca,La,Mn,Coの硝酸塩化合物を用い,それぞれ0.1mol/Lの濃度の出発溶液を調整した。これをp型およびn型の組成となるように秤量し,混合溶液を加熱しながら撹拌した。次に金属イオンを安定化させるため,金属イオン量の3倍のキレート剤(クエン酸一水和物)を加えて混合溶液を調整した。この粉末の熱重量測定をTG-DTAにて行うとともに,各種熱処理後の結晶性をX線回折にて評価した。
  図3にクエン酸錯体法で得られたp型材料粉末の熱重量測定結果を示す。200℃から温度の上昇に伴い重量が減少し,300℃以上で減少率が大きくなった。400℃以上で重量減少が止まり黒色の粉末が得られた。X線回折パターンを観察したところ,200℃では非晶質構造であることが分かった。一方,300〜500℃では前駆体の結晶性ピークが,更に600℃以上でCa2.7La0.3Co4O9の層状構造に起因する16.6°付近のピークが観察され,p型熱電材料の生成が確認された(図4)。n型熱電材料においても600℃にて熱電材料が生成することが確認でき,回折ピークの半価幅からシェラー法による粒子径解析を行ったところ,p型およびn型の結晶子サイズは各々136, 108 nmであった。

(図1 熱電変換モジュール)
(図2 製造方法と生成物の大きさの関係)
(図3 p型熱電材料の熱重量測定結果)
(図4 p型熱電材料のX線回折パターン)

2.2 熱電特性評価
 前記熱電材料の熱電特性を固相法と比較するため,固相法の素子の作製条件(p型:900℃で10時間保持,n型1250℃で12時間保持)で熱電素子を作製し,熱電特性を熱電特性評価装置(小沢科学,RZ2001i)にて評価した。p型素子の測定結果を固相法で作製した素子の結果とともに図5に示す。ゼーベック係数の温度依存性は固相法と比べて同等以上の値を示し,抵抗率は1桁低く良好な電気伝導性を示すことが分かった。n型材料でも同様の傾向が観察され,本手法が材料によらずに適用可能であることが分かった。

(図5 p型熱電素子(Ca2.7La0.3Co4O9)のゼーベック係数(左)と抵抗率(右))

3.結 果
 水溶液をベースとした熱電変換セラミックスの合成技術について検討を行い,クエン酸錯体法を用いて熱電変換セラミックスを合成した。X線回折測定の結果,ナノオーダーの結晶子サイズを持つ熱電材料が低温で(p型:900℃→600℃,n型:1250℃→600℃)得られることが分かった。一方で本粉末を焼結した熱電素子は固相法の焼結体と同等のゼーベック係数を示すとともに抵抗率は1桁低く,錯体化学法を用いることにより良好な熱電特性を示す材料を低エネルギーにて得られることが分かった。