1. 結果と考察

    4.1 熱応力測定結果
     張力試料の熱応力測定における最大応力と最大応力温度の結果を図6に,同じく張力・熱処理試料の結果を図7に示す。また,測定された応力値の微分解析曲線により求めた変位量の最大値とその温度をの結果を図8(張力試料),図9(張力・熱処理試料)に示す。

    図6 最大応力と最大応力温度(張力試料)
    図7 最大応力と最大応力温度(張力・熱処理試料)
    図8 最大変位量と変位温度(張力試料)
    図9 最大変位量と変位温度 (張力・熱処理試料)

     張力試料では,張力による最大応力および最大応力温度の傾向ははっきりしない。しかし,張力・熱処理試料においては,張力により最大応力が増加し,最大応力温度は低温側へ移行する傾向を示した。繊維に張力が加わると,内部の分子鎖が張力の付加方向に伸ばされる。このような状態の試料にさらに,熱処理を行うと熱エネルギーによって張力付加方向への分子鎖の配向がより活発になるため,張力・熱処理試料の方が張力に対してより明確な傾向を示すと考えられる。
     また,微分解析による変位量について,張力試料においては張力による最大変位値の傾向ははっきりしないが,張力・熱処理試料おいては張力により最大変位量が増加した。また,そのときの最大変位値温度は,張力により低温側へ移行した。変位量においても,張力試料より張力・熱処理試料の方が張力に対してより明確な傾向を示した。このことから,変位量の張力による影響は,応力のものと傾向が等しく,張力による糸への影響を検討する際に,応力解析と同様に繊維の内部構造への影響について推測可能であると考えられる。

    図10 粉末法によるDSC測定結果(張力試料)
    図11 定長固定法によるDSC測定結果(張力試料)
    図12 粉末法における融解及び再結晶化温度の変化(張力試料)
    図13 粉末法における融解及び再結晶化熱容量の変化(張力試料)
    図14 定長固定法における融解及び再結晶化温度の変化(張力試料)

    4.2 DSC測定結果
     張力試料を従来の粉末法で測定した結果を,図10に,定長固定法で測定したものを図11に示す。それぞれの図上で矢印で示したのが,非晶領域の再結晶化に伴う発熱ピークである。図内の矢印においては,粉末法の結果ではバラツキがあり傾向が見られないが,定長固定法の結果では張力が大きいほど温度が低温側に移行している。 この傾向を明らかにするために,張力に対する融解及及び再結晶化温度の変化を図12(粉末法),図14(定長固定法)に示す。また,融解及び再結晶化熱容量についてまとめたものを図13(粉末法),15(定長固定法)に示す。粉末法ではばらつきがあり,融解および再結晶化の温度と熱容量の張力による変化の傾向は見られなかった。しかし,定長固定法では0〜0.62N/Texまでの張力では再結晶化現象が見られず,0.09N/Tex以上の張力の影響により再結晶化が現れ,その温度は低温側へ移行した。また,再結晶化熱容量は,張力により増加の傾向を示した。

    図15 定長固定法における融解及び再結晶化熱容量の変化(張力試料)
    図16 定長固定法における融解及び再結晶化温度の変化(張力・熱処理試料)
    図17 定長固定法おける融解及び再結晶化熱容量の変化(張力・熱処理試料)

     この結果から,ある程度以上の張力下では,熱などにより再結晶化が可能になる程の分子鎖の配向が繊維内部構造の非晶領域で形成されると推察される。
     また,図16,17には張力・熱処理試料の定長固定法によるの各温度,熱容量を示した。これらの結果は,張力試料と同様な傾向を示すが,再結晶化現象はより低張力から発現し,その傾向は張力試料より明確なものであった。

  2. 結言

     織物の欠点をより明確に解析する方法を確立するために,繊維の熱特性測定について,新しい解析法,測定法を検討した。具体的には,熱応力測定において,応力曲線の微分解析を行いその変位について求め,その量と温度の張力や熱による影響について考察を行った。DSC測定においては,測定中の収縮を抑制する定長固定法について考察した。

    1. 熱応力の最大変位量及びその温度によって,張力の影響を検討できることがわかった。特に,張力の増加により,変位量は増加し,その温度は低温側へ移行する傾向を示した。
    2. 定長固定法によるDSC測定によって,従来の粉末法よりも張力の影響をより明確に検討で   きることがわかった。その結果,ある程度以上の張力により再結晶化の発熱ピークが発現する   ことが確認された。また,張力により再結晶化熱量は増加し,その温度は低温側へ移行する傾   向を示した。
       これらの測定結果から,張力による繊維内部構造の非晶領域において,再結晶化可能な領域が形成されることを確認した。また,張力試料を熱処理することで,その構造がより明確になった。

       

    参考文献
    1)北沢,橋:繊維学会誌,Vol.32,P-359(1975)
    2)A.Peterlin:Colloid and Polymer Sci.,Vol.253,809(1975)
    3)M.Todoki,T.Kawaguchi,J.Polym.Sci.Phys.Ed.,Vol.15,1507(1977)


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