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 食品製造副生物の高度利用化技術に関する研究
 −凍り豆腐クズを利用した味噌の試醸−
 食品加工技術研究室 ○道畠俊英 林美央 勝山陽子 附木貴行 日比野剛
 羽二重豆腐(株) 川嶋正男
 石川県農業短期大学 矢野俊博 榎本俊樹

 凍り豆腐を製造する際に,大量の切りクズが発生する。この凍り豆腐クズを有効利用することを目的に,大豆代替物として味噌を試醸し,大豆味噌との成分比較や機能性について検討を行った。その結果,凍り豆腐クズを利用した試醸味噌は,対照とした丸大豆を用いた味噌よりもタンパク質含有量が多く,成分的には通常の米味噌と豆味噌の中間的な特徴を有していた。有機酸では大きな特徴は見られなかったが,総遊離アミノ酸含有量は大豆味噌よりも高く,特に旨味成分であるグルタミン酸が非常に多く含まれていた。また,凍り豆腐クズを利用した味噌の機能性では,DPPHラジカル消去活性は弱かったが,非常に強いACE阻害活性が認められた。従って,凍り豆腐クズを利用した味噌はグルタミン酸など多くの遊離アミノ酸を含んでおり,血圧上昇抑制効果の期待できる機能性食品としての可能性があることが示唆された。
キーワード:凍り豆腐,味噌,遊離アミノ酸,DPPHラジカル消去活性,ACE阻害活性

Study on the Utilization of Residue from Food Processing
- Miso Fermentation Using the Residue of "Kori-Tofu" -

Toshihide MICHIHATA, Mio HAYASHI, Yoko KATSUYAMA, Takayuki TUKEGI, Tsuyoshi HIBINO,
Masao KAWASHIMA, Toshihiro YANO and Toshiki ENOMOTO
   
We fermented several kinds of miso using the residue obtained from the production of "Kori-Tofu", as an alternative to soybeans. In this study, general components, organic acids and free amino acids were analyzed. In addition, radical scavenging activity and ACE inhibitory activity were evaluated. The results obtained were as follows: (1) "Kori-Tofu" miso showed higher values of crude protein and total free amino acids than did soybean miso. In particular, "Kori-Tofu" miso contained a larger amount of glutamic acid. (2) Although their DPPH radical scavenging activities were very weak, all "Kori-Tofu" miso samples showed very strong ACE inhibitory activities; stronger than those shown by soybean miso. From these results, it was confirmed that "Kori-Tofu" miso contained a large amount of free amino acids, and the possibility of it serving as a functional food for controlling high blood pressure was suggested.
Keywords:Kori-Tofu, miso , free amino acid, DPPH radical scavenging activity, ACE inhibitory activity

1.緒  言
 凍り豆腐は高野豆腐とも呼ばれ,我が国独特の伝統食品である。凍り豆腐は,生豆腐を自然の寒気で凍結し,これを解凍乾燥させる方法で製造され,関西では高野山を中心とする地域で高野豆腐の名で普及した。現在では,凍り豆腐のほとんどが人工凍結法によって生産され,しかもその90%が長野県で生産されている1),2)。
石川県においては,羽二重豆腐(株)でのみ生産されており,その生産量は年間約318トンと全国的にもトップクラスの生産量であり,全国規模で販売を行っている。しかし,凍り豆腐の製造過程において切りクズや不良品など,年間約1トンと大量のいわゆる凍り豆腐クズが発生している。現在,この凍り豆腐クズは産業廃棄物として処理されている。しかし,成分的には製品と全く同じであるため,精製されたタンパク質を多く含んでいることが考えられる。また,食品リサイクル法3)が施行され,食品工場からの産業廃棄物の削減が義務付けられたことにより,この凍り豆腐クズを有効利用することが課題となっている。そこで,タンパク質高含有の凍り豆腐クズを大豆の代替物として味噌の試醸を行い,凍り豆腐クズの有効利用について検討した。
近年,食品の持つ機能性(抗酸化性,血圧上昇抑制作用など)が注目されており,味噌や醤油などの発酵食品においても機能性を有することが報告されている4),5)。そこで今回試醸した凍り豆腐クズ利用味噌についても機能性,即ち抗酸化性,血圧上昇抑制効果について検索し,機能性食品としての可能性についても併せて検討を行った。

(表1 凍り豆腐クズ利用ミソの試験区と原料配合)

2.実験方法
 2.1 試醸方法
 試醸した味噌の原料配合を表1に示す。即ち,通常の米味噌の配合比を基本とし,凍り豆腐クズ,精米,製麹の配合比を変えた7種類の味噌(凍り味噌1〜7)を試醸した。また,対照区として丸大豆を用いた味噌(対照味噌)についても試醸した。すべての試醸味噌は,室温において熟成し,試醸期間は3ヶ月とした。

 2.2 一般成分
 一般成分は,味噌分析法6)および食品分析法7)に準じた。水分は加熱乾燥重量法,タンパク質は窒素/タンパク質定量装置(三田村理研製,KJEL-AUTO)によるケルダール法,脂質はジエチルエーテルによるソックスレー抽出法,灰分は550℃での直接灰化法,塩分はモール法により測定した。また,炭水化物は水分,タンパク質,脂質,灰分の合計を100から差し引いて算出した。

 2.3 有機酸
 有機酸の測定は,試料10gを蒸留水100mlで3時間室温で抽出後,抽出液を0.45μmメンブランでろ過し,有機酸分析計システム(昭和電工製,ShodexOA)でポストカラム誘導体化法により定量した。

 2.4 遊離アミノ酸
 試料1gを有機酸と同様に蒸留水100mlで抽出後,メンブランろ過し,アミノ酸分析計(日立製作所製,L-8500)により生体成分分析法で定量した。

 2.5 抗酸化性の測定
 2.5.1 抗酸化性測定用試料の調製
試醸した味噌を凍結乾燥後ラボミルサーにより粉末化した。得られた粉末試料0.5gをジメチルスルフォキシド(DMSO)25mlで抽出し,得られた抽出液をろ過して抗酸化性測定用試料とした。
 抗酸化性は図1に示すように,1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl(DPPH)を用いたラジカル消去活性を須田らの方法8)に準じて測定した。即ち,DPPHラジカル消去活性の測定は,試験管に200μM DPPH 600μl,200μM 2-morpholinoethanesulfonic acid (MES) buffer 300μl,蒸留水300μl,50%エタノール(1200−a)μlを加えたものにDMSOで抽出した分析試料 aμlを加え,2分後に520nmでの吸光度を測定し,DPPHラジカルの退色を測定した。抗酸化性(ラジカル消去能)は,吸光度を50%退色させる濃度(IC50)を没食子酸相当量として表示した。没食子酸におけるIC50値をA(μM)とし,吸光度を50%減少させるのに必要な抽出液の量B(μl)とすると,乾燥重量1gからの抽出液の没食子酸相当量は0.75A/B(mmol/乾燥重量)となる。

(図1 DPPHラジカル消去活性の測定法)

2.6 血圧上昇抑制効果の測定
試醸味噌の凍結乾燥粉末0.25gを100mMリン酸buffer(pH8.3)10mlで抽出し,得られた抽出液をろ過後,適意希釈し血圧上昇抑制効果測定用試料とした。
血圧上昇抑制効果は,アンジオテンシンT変換酵素(ACE)の阻害活性をHORIUCHIら9)およびOHTAらの方法10)に準じ測定し評価した。即ち,試験管に試料100μlと基質(2.35mM Hip-His-Leuリン酸buffer(pH8.5)溶液)50μlを加え,37℃で5分間プレインキュベート後,ACE溶液(0.05U)を200μl添加し,37℃,60分間反応させた後,3%メタリン酸ナトリウム溶液100μlを加え反応を停止させた。得られた反応液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により表2の条件で測定し,酵素反応により生成した馬尿酸を定量し,ACEの活性を50%阻害するIC50値を求めた。

(表2 馬尿酸のHPLC測定条件)

3.結果と考察
 3.1 一般成分
今回試醸に用いた凍り豆腐クズの一般成分は,水分34.9%,タンパク質36.7%,脂質20.7%,灰分2.5%,炭水化物5.2%であり,凍り豆腐の製品と同じ成分組成であった。大豆のタンパク質は35.3%であり11),凍り豆腐クズは大豆の代替物として十分なタンパク質含有量を示した。
今回試醸した凍り味噌は,均一なペースト状をしており,ざらつきの少ない食感の味噌が得られた。試醸した凍り味噌1〜7と大豆を用いた対照味噌の一般成分を表3に示す。いずれの試醸味噌においても,塩分は9.4〜11.2%とほぼ仕込み食塩量と一致し,一定の塩分濃度を持つ試醸味噌が得られた。水分では,凍り豆腐クズの仕込み割合が多い凍り味噌1〜3で50.6〜53.3%と高い傾向が見られ,これら以外の試醸味噌では45%前後と通常の製品と同程度の水分量であった。これは,原料の凍り豆腐クズの持つ水分がそのまま反映されたものと考えられる。タンパク質は,凍り豆腐クズと製麹の配合割合の高い凍り味噌1〜3,6,7で,炭水化物は精米の配合割合が高い凍り味噌4〜7で高い傾向が見られた。脂質は凍り豆腐クズの配合割合の高い凍り味噌1〜3で高く,灰分は塩分同様いずれの試醸味噌において同程度であった。今回試醸した凍り味噌は,大豆を用いた対照味噌よりもタンパク質量の高い味噌が得られ,凍り味噌1〜3は通常の豆味噌製品に近い成分組成を示した11)。従って,凍り豆腐クズを利用することにより,従来の米味噌とは違ったタンパク質高含有の新しいタイプの味噌が得られることが判明した。

(表3 誌醸味噌の一般成分(wt%))

3.2 有機酸組成
 試醸味噌の有機酸組成を表4に示す。有機酸の成分は,クエン酸,ピログルタミン酸,酢酸,リンゴ酸,乳酸,コハク酸などであり,量的にはクエン酸とピログルタミン酸が大部分を占めていた。クエン酸については麹から,ピログルタミン酸は遊離アミノ酸のグルタミンの変性反応から生じたものと考えられる。乳酸,コハク酸についてはいくつかの試醸味噌で検出されているが,いずれも量的に少ないことから今回の試醸における発酵の過程において,酵母や乳酸菌の作用がほとんど行われなかったためであると推察される。また試醸味噌すべてにおいて,プロピオン酸,n-酪酸などの腐敗によって発生する有機酸が検出されなかったことから,試醸期間において,腐敗菌の作用を受けず順調に熟成が進んだものと考えられる。

(表4 誌醸味噌の有機酸組成 (mg/100g))

3.3 遊離アミノ酸組成
 試醸味噌の遊離アミノ酸組成を表5に示す。凍り味噌の総遊離アミノ酸量は2233〜3435mg/100gといずれも対照味噌1762mg/100gより高い値を示した。特にタンパク質含有量が高い凍り味噌2,3では,対照味噌の約2倍と非常に高い総遊離アミノ酸量を示した。凍り豆腐クズを利用した味噌で総遊離アミノ酸量が増加したことから,凍り豆腐クズ中に含まれるタンパク質は,製造の過程で加熱処理を受け熱変性されていると考えられる。そのため,麹の持つプロテアーゼの作用を生の大豆中のタンパク質よりも受けやすい構造となっており,同じ試醸期間でより多くの遊離アミノ酸が生成されてきたものと推察される。
遊離アミノ酸組成では,いずれの試醸味噌においてもグルタミン酸が最も多く,次いでアルギニン,リジン,ロイシン,アスパラギン酸,セリンなどであった。特に凍り味噌1,2で,旨味の指標であるグルタミン酸が対照味噌の約2倍に増加していることから,凍り豆腐クズを利用することにより旨味の強調された味噌が得られるものと考えられる。

(表5 誌醸味噌の遊離アミノ酸組成 (mg/100g))

3.4 試醸味噌の抗酸化性
 試醸した味噌のDPPHラジカル消去活性について図2に示す。凍り味噌1,3,4において他の試醸味噌よりも高いDPPH消去活性が見られたが,いずれもIC50値の没食子酸相当量が20μmol/g-乾燥重量と,非常に低いものであった。従って,試醸したすべての味噌において,抗酸化性物質はあまり含まれていないために低い活性にとどまったものと考えられる。

(図2 誌醸味噌のDPPHラジカル消去能)

3.5 試醸味噌の血圧上昇抑制効果
 試醸した味噌のACE阻害活性について図3に示す。
試醸した味噌すべてにおいて強いACE阻害活性が認められた。更に凍り味噌はいずれも対照味噌より約2倍前後の非常に強い阻害活性を示した。食品中のACE阻害活性については多くの報告があり4),12)-16),ACE阻害物質が単離され,生体における血圧上昇抑制効果も評価されている17)-20)。従って,凍り豆腐クズを利用した味噌についても血圧上昇抑制効果を持つ,いわゆる機能性食品としての可能性が示唆された。また,試醸味噌中に含まれるACE阻害物質の一部は短鎖のペプチドであることが予想され,今後,更に検討を進める必要がある。

(図3 誌醸味噌のACE阻害能)

4.結  言
 凍り豆腐クズの有効利用を目的に,大豆の代替物として味噌への利用について検討し,以下の結果を得た。
(1)凍り豆腐クズを利用した試醸味噌の一般成分では,凍り豆腐クズの配合比が多いものは,対照区の大豆味噌よりタンパク質含有量が多く,通常の米味噌と豆味噌の中間的な成分を持つ味噌が得られた。
(2)試醸味噌の有機酸組成では,クエン酸,ピログルタミン酸が主な有機酸であり,乳酸,コハク酸が少なかったことから,酵母,乳酸菌の関与はほとんど認められなかった。また,腐敗臭の一因であるn-酪酸はすべての試醸味噌で認められなかった。
(3)凍り豆腐クズを利用した味噌はすべて総遊離アミノ酸の含有量が対照区の大豆味噌よりも高く,旨味成分であるグルタミン酸を非常に多く含んでいた。
(4)試醸した味噌の抗酸化性では,いくつかの味噌で抗酸化力が認められたが,いずれも活性は弱かった。
(5)試醸味噌すべてにおいてACE阻害活性が認められ,特に凍り豆腐クズ利用味噌は対照区の大豆味噌と比較して約2倍程度の非常に強い活性を示した。
 以上のことから,凍り豆腐クズを利用した味噌は,旨味成分であるグルタミン酸を多く含んでおり,血圧上昇抑制効果の期待できる機能性食品としての可能性が示唆された。

参考文献
1)山内文男, 大久保一良編. 大豆の科学. 東京, 朝倉書店, 1999, 90-91.
2)渡辺篤二, 齋尾恭子, 橋詰和宗共著. 大豆とその加工T. 東京, 建帛社, 1992, 130-131.
3)農林水産省. 食品リサイクル法. 2000.
4)Okamoto, A., Hanagata, H., Matsumoto, E., Kawamura, Y., Koizumi, Y.,Yanagida, F.. Biosci. Biotech. Biochem.. Vol.59, 1995, 1147-1149.
5)須見洋行. 食品工業. Vol.41, 1998, 49-55.
6)全国味噌技術会編. 基準味噌分析法. 東京, 昌平堂印刷, 1971.
7)日本食品工業学会・食品分析法編集委員会編. 食品分析法. 東京, 光琳, 1984.
8)篠原和毅, 鈴木建夫, 上野川修一編. 食品機能性研究法. 東京, 光琳, 2000. 218-220.
9) Horiuchi, M., Fujimura, K., Terashima, T., Iso, T.. J. Chromat.. Vol.233, 1982, 123-130.
10) Ohta, T., Iwashita, A., Sakai, S., Kawamura, Y.. Food Sci. Technol. Int. Tokyo. Vol.3, 1997, 339-343.
11)科学技術庁資源調査会編. 五訂日本食品標準成分表. 東京, 大蔵省印刷局, 2000.
12)斉藤義幸, 中村圭子, 川戸章嗣, 今安聰. 農化. Vol.66, 1992. 1081-1086.
13)原征彦, 松崎妙子, 鈴木建夫. 農化. Vol.61, 1987, 803-810.




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