全文(PDFファイル:408KB、4ページ)


 未利用農業廃棄物を利用した徐放性肥料の開発研究
 化学食品部 ○松田章 中村静夫
 情報指導部 吉村治
 石川県農業総合研究センター 宮川修
 金沢工業大学 附木貴行 安立誠 水野克美 小川俊夫 大澤敏

 現在使用されている肥料の多くは水溶性のため速効性には適応しているが,持続性がない。必ずしも作物が必要となる時期に必要な量を徐放されていない。そこで本研究では,肥料成分の溶出制御幅が広く,安定性に優れ,溶出終了後には環境中で被膜試料が生分解を生じる被膜肥料およびその作製方法を検討した。その結果,ラミネート構造にすることにより徐放を一定期間抑制し得ることを明らかにした。また,押出成形ではより簡単に成形でき,ラミネート構造と比較して徐放期間を長くすることができた。

キーワード:徐放性,生分解樹脂,肥料

Development of Controlled Releasing Fertilizer by Using Biodegradable Polymers and Agricultural Waste

Akira MATSUDA, Osamu YOSHIMURA, Shizuo NAKAMURA, Takayuki TSUKEGI, Makoto ADACHI, Katsumi MIZUNO, Toshio OGAWA and Satoshi OSAWA

 Most of fertilizers used at present are excellent in immediate effect because of water solubility, but there is no persistence. Therefore, it is usually difficult to supply the nutrition for crops with sufficient quantity and at appropriate time. In this study, the manufacturing method of fertilizer having the following features was studied; the elution of component in fertilizer could be controlled widely, the stability was excellent, and polymers coating fertilizer were biodegradable in the environment after the use. Consequently, it was found that fertilizer laminated with biodegradable polymers could control the releasing speed of components during a fixed period. Moreover, fertilizer could be manufactured more easily by using extrusion method. This method gave the longer releasing period of component from the fertilizer than that of laminating method.

Keywords:controlled release, biodegradable polymer, fertilizer


1.緒  言
 籾殻等の農業廃棄物は一部土壌改良等に使用されているが,大部分は廃棄され環境に負荷を及ぼしている。また,現在農業や園芸に使用されている肥料の多くは水溶性のため効きはじめが早く,短期間で効果がなくなり生長期に追肥として定期的に与えなければならない。緩効性や遅効性などの肥料が開発され,近年では成分の溶出速度をある程度まで調節できる樹脂で被覆した肥料などが生産されるようになった。しかし,必ずしも植物が必要となる期間に必要な量を徐放されていない1),2)。また,被覆する樹脂がポリオリフィン系やポリ塩化ビニリデンであるため土壌で分解されず,残った樹脂が環境汚染に影響を及ぼすおそれがある2),3)。
 そこで本研究では, 肥料使用量の削減および労力の省力化を目的に,農業廃棄物自身を有効活用して,植物の生長等に必要な肥料を生分解性樹脂に内包させた環境負荷低減型肥料の試作・検討を行った。作製した徐放性樹脂は土壌中に埋設し,土壌中での分解性,徐放効果を検討した。

2.徐放性肥料の開発および利用方法
 図1に本研究での徐放性肥料の開発および利用方法について示す。籾殻等の農業廃棄物を利用し,肥料を包む母体として,肥料成分の溶出制御幅が広く,安定性に優れ,溶出終了後には環境中で速やかに生分解を生じるような被膜(生分解性樹脂)を選定し,効果的な徐放性が得られる徐放性肥料の調製方法およびその形状について検討を行うこととした。このような徐放性肥料は直接肥料として利用できるほか,成形によって環境にやさしい農業用カップなどにも応用が期待できる。

(図1 徐放性肥料の開発および利用方法)

3.実験方法
3.1 試料
 本研究で使用した生分解性樹脂は土壌中で比較的分解し易いポリカプロラクトン(PCL)((株)ダイセル化学工業製PH-7)を使用した。肥料のモデルとして窒素を多く含む尿素を用いた。未利用農業廃棄物として,籾殻炭を使用した。

3.2 成形方法
  成形方法は肥料成分が比較的多く混合できるシート状と農業用環境材料に応用できるペレット状の二種類で行い,比較検討した。成形方法@(ラミネート成形法):ジオキサンで生分解性樹脂10wt%を(常温)溶解し,溶解した液に尿素85wt%と籾殻炭5wt%を混合させてアプリケーターにてシートを作製した。シートを乾燥させた後,円型に型抜きした試料を生分解性シート(単体)ではさみラミネートコーティングした。さらに,作製したシートをポンチで円形に型抜きしたものを徐放性試料として用いた。成形方法A(押出成形法):一軸型押出成形機(サーモプラスチック産業 30EXT)を用い,配合割合を樹脂:尿素=80:20として4)ペレット型の肥料を作製した。図2に各試料の形状を示す。

3.3 徐放性肥料の特性・評価

(図2 ラミネートおよび押出成形による徐放性肥料の形状 (A):ラミネート (B):ペレット)

 徐放性肥料の徐放性評価方法として、土壌埋設試験を行った。土壌は,成形方法@では土と砂の二種類を,恒温槽中にて湿度70%,温度25℃に保持して用いた。成形方法Aではバーク堆肥と園芸用の土を1:2で配合したものを用いた。各試料を地表から10cmの深さに埋設し,一定期間毎に試料を取り出し,形態観察,重量変化および窒素残存量の測定を行った。形態観察は,電子顕微鏡(TOPCON製SM-200)により徐放前後の試料の表面を対象に行った。また,総窒素測定は,土壌試験後の試料重量測定後,窒素測定装置(フォス・ジャパン叶サ2300型Kjeltec Analyzer Unit)により行った。

4.結果および考察

(図3 ラミネート試料の表面および断面)
  (A):コーティングなし (B):コーティング有り
 (1):表面 (2):断面

4.1 成形方法@
 図3に成形方法@によりPCL/Urea/rice hull charcoalにPCL単体をコーティングしたものとしないものについて,それぞれの表面と断面のSEM写真を示す。コーティングなしの試料(A)は溶媒による揮発などによる孔が見られ,比較的もろく物理的な分解を受けやすい状態であった。一方,コーティング試料(B)は多少の揮発孔は見られたがコーティングなしの試料に比較して取り扱い上,安定であった。この試料を用いて土壌試験を行った。
 図4に土壌埋設試験48日後の表面を観察したSEM写真を示す。図より,表面に亀裂や穴があき,樹脂が分解されていることがわかる。そこで,亀裂や穴からの尿素放出が考えられたので,窒素測定を行った。
 図5に土壌試験後の窒素残存量および重量変化を示す。表面コーティングしていない試料は,土壌試験直後に約80%の大幅な重量低下を示した。これは土壌および砂の水分により尿素が溶出してしまったと考えられ,コントロールが困難であることが明らかとなった。一方,表面コーティングを行った試料は,コーティングなしと同様,土壌埋設後,重量減少が起こったが,その後42日まで低下はほとんどなかった。しかし,表面に施したコーティング樹脂が崩壊したため56日後から新たな減少が始まった。
 重量減少に伴う窒素残存量を測定した結果,コーティングなしの試料は窒素の消失が埋設直後に起こっていることがわかった。また,コーティングした試料は約30日で80%以上消失していたが,コーティングなしに比べると徐放性に優れていた。土壌試験に用いた土および砂による徐放性の差は見られなかった。また,コーティングしたにもかかわらず,徐放速度が大きかったのは, コーティング樹脂の表面がキャスト法による成形法で作製したため,図3 (B-1)に示すように揮発孔が見られ,被膜としては不完全であるためと考えられた。したがって,被覆表面の形態をコントロールすることによって分解抑制期間を制御し得るものと考えられた。

4.2 成形方法A
 図6に土壌埋設試験後のペレット試料表面のSEM写真示す。日数が経過するごとに表面の亀裂や穴は大きくなっていることがわかった。

(図4 土壌埋設48日後のラミネート試料の表面)
 (A):コーティングなし (B):コーティング有り
 (1):砂 (2): 土

(図5 ラミネートによる徐放性肥料の土壌試験における窒素および重量変化)

(図6 土壌埋設後のペレット試料の表面)

 図7に成形方法Aで調製したPCL/Urea(押出成形によるペレット型肥料)の土壌埋設後の各試料の窒素放出量および重量変化を示す。土壌埋設後に20%近く重量が低下した。これは表面の尿素が溶解したためと考えられる。日数経過に伴い飽和状態となり徐放が止まっているかのように見られたが,窒素量の測定により徐々に放出されていることがわかった。
 以上のことより,徐放のメカニズムは図8のように考えられた。このことから,樹脂が分解されれば再び徐放が速く起こるものと考えられた。

4.3 徐放性肥料の用途開発

(図9 応用例)

 徐放性肥料の応用・用途として,これまでの結果から,ラミネート成形法ではシート状加工が適しているため,農業用マルチシートや家庭菜園用のカップへの応用が考えられる。一方,押出成形法では,射出成形機を用いてペレット状の加工に適している。このため,使用する金型により,いろいろな形状のものへの加工が可能である。たとえば,図9に示すようなゴルフのピンタイプの徐放性肥料などへの応用が可能と考えられる。

(図7 押出成形による徐放性肥料の土壌試験における窒素および重量変化)

(図8 ペレット試料の徐放のメカニズム)

5.結  言
 今回,以下の2通りの成形方法で徐放性肥料を作製し,土壌埋設試験による評価を行った。
(1)ラミネート成形法
 作製した試料は肥料である尿素の含有量を多くすることができ,土壌試験では徐放速度が大きい構造であったが,被覆表面の形態をコントロールすることによって徐放性期間を制御し得ることが示された。
(2)押出成形法
 押出成形機を用いて調製したペレット型では肥料の溶出が表面から行われ,内部の尿素は樹脂が分解しない限り溶出せず,ラミネート成形法に比較して徐放期間を長くできる構造であった。

参考文献
1)近藤保.マイクロカプセル その機能と応用.日本規格協会.1991,p189-195.
2)藤田利雄,前田正太郎,柴田勝,高橋知剛.被覆肥料に関する開発.肥料の現状と将来講演集.1989,p111-126.
3)土肥義治編.生分解性プラスチックのおはなし.日本規格協会.1993.
4)小川俊夫,附木貴行,大澤敏,吉村治.生分解性樹脂を用いた緩効性肥料の開発.高分子学会北陸支部第51回研究発表講演会.2002.






* トップページ
* 研究報告もくじ

概要のページに戻る