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 新規着色法による繊維材料の開発
  沢野井康成* 木水貢* 守田啓輔* 神谷淳*
    *繊維部

 本県繊維産業への新規編・織物開発支援のため,より視覚性に優れたポリエステル繊維材料の開発について検討した。その手法は,(a)パール調の光沢を有する顔料(パール顔料)を直接繊維に練り込む方法,(b)テキスタイル用インクジェットプリンタによる着色方法,の2種類で行った。(a)で試作した繊維の視覚的効果を評価するため,三次元変角光度計を用いて,様々な角度で反射光の分布特性を調べた。結果は,以下の通りであった。
(1) パール顔料を用いたペレットの作製およびその紡糸技術に関する知見が得られた。
(2) パール顔料を含有した繊維は含有しないものに比べ,反射光強度は小さいが反射分布は広くなっていることがわかった。
(3) インクジェットプリンタによる着色方法により,断続的に染色したポリエステル糸を試作することができた。
キーワード:ポリエステル,紡糸,パール顔料,インクジェットプリント,三次元変角光度計

Development of Fiber Material Colored with Functional Pigments

Yasunari SAWANOI, Mitsugu KIMIZU, Keisuke MORITA and Jun KAMITANI

To support development of new textile products in fiber industry, polyester fiber which was visually excellent was manufactured by two methods: (a) compounding of polyester resin and pearl luster pigments into fibers, (b) printing polyester knitted fabric with colorful design by an ink-jet printer and undoing it. Three dimensional goniophotometer was used for characterization of reflected light from the surface of the fiber made by the method (a). The results obtained in this study are as follows;
(1) The technique for pelletizing polyester resin including pearl lustre pigments and spinning it was established.
(2) Reflected light from the polyester fiber including pearl lustre pigments had moderate intensity and broad distribution curve against visual angle.
(3) Polyester fiber colored irregularly was obtained by undoing knitted fabric printed by an ink-jet printer.
Keywords:polyester, spinning, pearl lustre pigments, ink-jet print, three dimensional goniophotometer


1.緒  言
本県繊維製造業がグローバル化時代に生き残るためには,消費者ニーズを反映した付加価値製品を迅速に開発することが不可欠である。それには,糸そのものの高付加価値化やITに代表されるコンピュータを活用した製造技術が重要かつ有効と考えられる。これらの状況下から,工業試験場では,糸製造から染色加工にいたる試作設備を導入し,企業の繊維製品開発を支援している。ここで,繊維製品は生地素材と色彩との相乗効果で付加価値を高めているが,色彩については,一般に着色剤(顔料等)を紡糸時に練り込む方法(原着法)と,糸もしくは生地の状態で,染料を用いて着色する方法(後染め法)の二通りがある。
本研究では,原着法と後染め法による方法で,より視覚性に優れたポリエステル繊維材料の開発を目指した。原着法では,着色材に「真珠光沢」を有するパール顔料を使用する方法,後染め法では,昇華性の分散染料インクを持つインクジェットプリンタにより着色する方法で材料開発を行った。さらに,原着法で試作したパール顔料を含有した繊維の視覚的効果を評価するため,三次元変角光度計を用いて繊維表面の反射光強度分布測定を行った。
2.内  容
2.1 原着法による繊維材料の作製
原着法によるポリエステル繊維の作製手順は,@2軸混練押出機(鞄圏m精機製作所製ラボプラストミル)を用いて,パール顔料を単独あるいは複合したものを所定量練り込んだマスターバッチペレットを作製する。Aマスターバッチペレットとホモポリマーペレットを混合したものを,マルチフィラメント製造装置(ユニプラス叶サUM2002R型)を用いて,繊維化した。

2.1.1 ポリエステル樹脂
ポリエステル樹脂は,ポリエチレンテレフタレートホモポリマー(ユニチカ叶サMA2102 IV値0.67)を使用した。

2.1.2 パール顔料
試験に使用した顔料を,表1に示す。パール顔料(表中A〜D)は,メルク・ジャパン叶サの「IRIODIN」シリーズを用いた。これらは,天然雲母の表面を酸化チタンや酸化鉄などの金属酸化物でコーティングしたもので,コーティングの種類や厚さにより各種の光沢タイプがある。また,従来型の緑色顔料(表中E)は,含有率が5%のマスターバッチペレット(大日本インキ化学工業叶サ)を使用した。

2.1.3 混練り試験
 ポリエステル樹脂は,混練り中の加水分解による分子量低下を防ぐため,150℃で4時間乾燥させた後,顔料を所定量混合して押出成形し,温水により冷却後切断し,マスターバッチペレットを作製した。 押出成形温度は250〜270℃,スクリュー回転数は5〜10rpmで行った。マスターバッチペレットは,150℃で4時間乾燥して結晶化させたものを溶融紡糸試験に使用した。

2.1.4 溶融紡糸試験
上記の方法で作製したマスターバッチペレットとホモポリマーペレットより,パール顔料の含有が所定量になるように混合して繊維化した。以下に,溶融紡糸条件を示す。

使用ノズル 丸型 0.6mmφ 86ホール
        Y型      76ホール
押出温度条件
       C-1 :270〜280℃
       C-2 :272〜285℃
ダイス:275〜290℃
      HEAD:275〜290℃
ギアポンプ回転数:14〜19rpm
引取速度    :194〜437m/min
第一熱ロール温度:90〜100℃
速度:200〜450m/min
第二熱ロール温度:90〜100℃
 速度:900〜1264m/min
第三熱ロール温度:120〜140℃
       速度:1000〜1410m/min
巻取速度    :1000〜1400m/min
なお,使用したペレットは溶融押出し中の加水分解を防ぐため,ホッパー内で150℃,4時間以上乾燥させた後,押出し機内に投入した。

2.2 視覚的効果の評価
 パール顔料が入った繊維の視覚的効果の評価は,椛コ上色彩技術研究所製の三次元変角光度計GP-200型を使用して行った。測定試料は,かせ取り機を用いて平行に並べた繊維を,内側を一定の大きさに切り取った厚紙上に貼り付けて作製した。繊維表面に対して入射角を一定に固定し,受光範囲を変化させた時の反射光強度分布を測定した。

表1 試験に用いた各種顔料
顔料  タイプ    粒度分布(μm)A :干渉タイプ    10〜60 B :ゴールドタイプ  10〜60 C :金属光沢タイプ  10〜60 D :干渉タイプ    5〜25E :緑色マスターバッチペレット(5%)

2.3 インクジェットプリンタを用いた繊維材料の開発
ITを活用した製品開発の大きな特徴は,コンピュータによるデジタル情報を扱えることである。繊維製品の開発においても,デジタル化された色柄情報を活用した染色加工技術は重要である。そこで, これらの一つであるインクジェットプリンタによる着色法を用いた繊維材料の開発について検討した。その結果,一旦編物状にした生地にテキスタイル用インクジェットプリンタで模様をプリントした後これを解ぐして,断続的に染色(スペースダイニング)された糸を開発した。

表2 各種顔料を用いた溶融紡糸試験結果

3.結果および考察
3.1 混練り試験結果
ポリエステル樹脂と各顔料を混合し,2軸混練押出機に投入してマスターバッチペレットを作製した。その結果,試験の途中で樹脂投入により押出機のトルクが大きく変化し,スクリューに大きな負荷がかかったため,温度および投入量を調整し測定トルクを確認しながら,顔料2%含有のマスターバッチを作製することとができた。また,2%より多い含有量のマスターバッチを作製するため,ポリエステルホモポリマーを小さく粉砕し,顔料と混ぜることで顔料 5%含有のマスターバッチを作製することができた。

3.2 溶融紡糸試験結果
  図1 顔料0.5%含有繊維の延伸倍率と
強度および伸度の関係
   図2 顔料1.0%含有繊維の延伸倍率と
強度および伸度の関係
上記の混練り試験で作製したマスターバッチを使用して,パール顔料の含有が所定量になるように混合し,繊維化した。表2に各種顔料を用いた溶融紡糸試験での配合割合および延伸倍率を示す。紡糸試験では,部分的にフィラメント切れが発生したが,単糸で3.6〜5.6dtexの繊維を製造できた。図1と図2に,顔料を重量比で0.5%と1.0%含有繊維の延伸倍率と強度あるいは伸度の関係を示す。延伸倍率に対して,強度は直線的に増加し,伸度は減少している。また,その傾向は0.5%と1.0%含有で同様であり,顔料の含有率が0.5%増すことで強度および伸度が1〜2割程低下した。図3に丸型ノズルを使用して試作した繊維の表面および断面を走査型電子顕微鏡で観察した結果の一例を示す。図3(a)より,繊維表面には凹凸が多く見られたが,この凹凸部分にはおそらく顔料が存在しているものと推測される。しかしながら,物性的には図1および2で示すように,延伸倍率に対する強伸度の変化がホモポリマーで作製した繊維と同様の傾向となった。図3(b)のフィラメント中の白色のすじ状部分は,エネルギー分散型X線分光法による定性分析結果から,顔料であることが確認された。この結果より,パール顔料はフィラメント内部まで分布していることがわかった。パール顔料の視覚的効果を有効に発現させるには,繊維表面付近に顔料がより多く分布することが望ましく,これには,繊維断面は丸型より異形の方が適していると考えられる。そこで,断面がY型のノズルを使用した場合についても繊維の試作をした。図4に,その繊維表面および断面観察した結果の一例を示す。図4(a)より,繊維表面には丸型ノズルの場合と同様に凹凸状のものが見られ,図4(b)より,断面は正三角形に近いY型となっていることがわかった。また,断面の白色のすじ状部分は顔料であることが確認された。 これより,Y型ノズルを使用した場合でも,顔料は丸型のものと同様に,フィラメント内部まで分布していることがわかった。今回使用したパール顔料は鱗片状の形(図5)をしているが,その形状が特に繊維表面への分布には,影響しなかった。  


(a) 表面(500倍)

(b) 断面(1500倍)

図3 丸型ノズルを使用して試作した糸の表面
および断面観察結果の一例
上記の結果から,パール顔料を繊維に練り込んで紡糸することは十分可能であるが,顔料はフィラメント内部に比較的多く分布し繊維表面付近にはあま
り見られないことが明らかになった。次に,試作し
た繊維の視覚的効果を調べるための試験を行った。


図5 パール顔料(500倍)


(a) 表面(500倍)

(b) 断面(1000倍)

図4 Y型ノズルを使用して試作した糸の
表面および断面観察結果の一例

3.3 三次元変角光度計による反射光強度分布測定結果
人が物の表面に光沢を感じたり,あるいはその表面状態(滑らかさ,凹凸感)を判断する情報には,正反射光の強度が関係するといわれる1),2)。図6に,試作したパール顔料が入った繊維と入らないもの(ブランク)について,入射角が60℃で受光角が-90〜+90の範囲の反射光強度分布を測定した一例を示す。パール顔料を含有した繊維はブランクに比べ,反射光強度は全体的に弱くなった。この理由の一つとして,先の図3および4の結果から繊維表面に多くの凹凸が見られることが考えられる。凹凸があればあるほど入射した光は拡散,屈折を繰り返して,光は吸収され反射強度は低下するためである1),2)。しかしながら,パール顔料含有繊維は,反射光強度は小さいものの広範囲でブロードな反射分布特性を持つことが確認された。一方,図7に示すようにY型ノズルで試作したパール顔料含有繊維と丸型ノズルで試作したパール顔料含有繊維を比較すると,前者は前者に比べ,ピーク値の幅がより広くなった。複数名による視感判定の結果,今回試作したパール顔料が入った繊維は,ブランクに比べると,いらつきは無く落ち着きのある光沢を有するものであった。しかしながら,パール顔料自身がもつ光沢は,十分に発現されていないよう感じられた。

3.4 インクジェットプリンタによる着色法を用いた繊維材料の試作結果

図6 パール顔料が反射光強度におよぼす影響
図7 紡糸ノズル形状が反射光強度におよぼす影響
編地は巻き現象があるので,インクジェットプリンタでプリントする場合,この現象が少ないゴム編を用いることにした。また,インクジェットプリントでは,編地の密度が粗いとインクジェットノズルから出射されたインクは生地を透過してしまう。加えて,細番手の糸や低伸縮性の糸は,製編中あるいはプリント・発色後に編地を解く時に糸切れが発生する可能性が高い。そのため,糸は繊度が290dtexのポリエステルウーリ糸(2ヒータタイプ)を2本引き揃えたものを使用し,無縫製編物システム(鞄精機製作所製FIRST184型)で幅50pのものを編成した。次に,インクジェットプリンタ(コニカ劾assenger KS1600-U型)を用いて,プリントした。この時の模様は,長さ方向に8色(黄,橙,紫,紺,緑,茶,青赤)のストライプを出力した。編生地はよこ方向に特に伸びる傾向があるため,プリント時にはインクジェットノズルのヘッド部分で生地の幅が変動しないように固定した。通常インクジェットプリントの場合,染料インクの定着やにじみ防止のため,予め糊剤の生地上への均一的な塗布が行われているが,今回は特に生地への前処理をしなかった。

3.4.1 インクジェトプリント生地の発色と繊維材料の試作
インクジェットプリント後,生地上の染料インクを繊維中に拡散させて発色させる工程が必要となる。一般的にポリエステルを発色させるには,170〜180℃の加熱蒸気によるスチーミング処理か200℃前後の乾熱処理が必要となるが,今回は後者の方法で行った。熱処理の結果,生地を良好に発色することができた(図8)。発色した生地の一端から解して糸を取り出した結果,図9に示すような,糸自体のクリンプとともに,繊維の長さ方向に対して断続的に染色(スペースダイニング)された糸を製造することができた。スペースダイニングされた理由としては,編地の下側つまりインクジェットノズルのヘッドと反対側にある糸には,出射されたインクが到達しなかったためと考えられる。

3.4.2 織物の試作
たて糸に未染色のポリエステル糸を,よこ糸に上記で試作した糸を用いて朱子織物を製織した結果,図10に示すように,織物全面に斑模様が観測された。これは8色のカラーが断続的に繰り返された糸がよこ方向に打ち込まれたことによるものと考えられる。
上記の結果より,ゴム編みした生地にテキスタイル用インクジェットプリンタを用いてプリントしたものを発色後,これを解くことで部分的に着色されたポリエステル糸を製造できることが確認できた。

4.結  言

図10 試作した糸を用いて製織した織物表面
(1) 粒度分布が5〜60(μm)のパール調の光沢を有するパール顔料を1.0〜5.0%含有したポリエステペ
レットを用いて紡糸することができた。
(2) 試作したパール顔料を含有した繊維表面には,凹凸が多く見られ,また顔料はフィラメント内部
まで分布していることが確認された。

図8 インクジェットプリント後発色した生地


図9 発色した生地を解いたもの
(3) 三次元変角光度計により,パール顔料を含有した繊維と含有しないものとの反射光分布特性を比較した結果,前者は後者に比べ反射光強度は小さいが,反射分布は広いことが確認された。
(4) テキスタイル用インクジェットプリンタを活用することで,断続的に染色したポリエステル糸を試作することができた。
(5) (4)の糸を用いて,その表面に断染め模様効果を付与した織物を試作することができた。

謝  辞
 本研究を遂行するに当たり,終始適切なご助言を頂いた福井大学工学部教授堀照夫氏に感謝します。また,インクジェットプリンタによる着色法において,貴重なアドバイスおよびご協力を頂いた石川県工業試験場繊維部長近岡和英氏ならびに同繊維部技師中島明哉氏に感謝します。

参考文献
1) 李?貞,佐藤昌子:布の表面幾何学的構造と光の反射特性,日本色彩学会誌,Vol.23,No.2,p.68-77(1999)
2) 李?貞,佐藤昌子: 糸と布、その光反射特性に関する研究, 日本色彩学会誌, Vol.23, No.3, p.131-140 (1999)




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