全文 (PDFファイル:301KB、4ページ)


 耐高圧用地下埋設型防火水槽の開発
  古本達明* 多加充彦* 東崎英樹**
    *機械電子部 **玉田工業株式会社

 本報告では,耐高圧性の向上と工期短縮を目的として,鋼板製防火水槽を開発するための新しい設計手法を提案した。
従来,鋼板製の防火水槽の設計はJISに基づく簡易的な計算によるものであり,自動車重量の負荷までしか適用できないという問題があった。そこで,3次元CADと有限要素法解析を併用して,タンクが埋設した状態で受ける様々な荷重条件および拘束条件を精度良くモデル化して強度評価することにより,航空機のような重荷重を考慮した設計手法を確立する検討を行った。
本手法を横置円筒型タンクの構造設計に適用した結果,従来手法に比べてタンクの変形や応力集中を精度良く評価でき,3000kNの重荷重にも耐え得るタンクの設計が短期間で行うことができた。
キーワード:防火水槽,設計手法,3次元CAD,有限要素法解析,横置円筒型タンク

Development of Underground Fire Prevention Tank for External High Pressure

Tatsuaki FURUMOTO*,Mitsuhiko TAKA* and Hideki TOUZAKI**
   
In this report, a new design technique for the fire prevention tank made of steel is proposed for improving a high pressure resistance of the tank and shortening the lead-time in the production.
A simple calculation method based on JIS has been used for the conventional design. However the precise strength evaluation cannot be obtained for the pressure over an automobile weight by this method. We developed the design technique that is applicable to the high pressure of an airplane weight by using both 3D-CAD and FEM analysis. The reliability of the strength evaluation for a horizontal type cylindrical tank was improved by this method. As a result, the tank with the pressure resistance of 3000kN was designed.
Keywords:fire prevention tank, design technique, FEM analysis, horizontal type cylindrical tank


1.緒  言
県内の地下埋設型の燃料タンクメーカ(玉田工業株式会社)では,自社の設計ノウハウを活かして円筒構造の防火水槽の開発を行っている。従来,公園や駐車場に埋設されている横置円筒型タンクの場合の設計は,圧力容器のJIS規格に基づいて行われていた。しかしながら,この方法は簡易的なものであり,地上構造物から受ける荷重に制約がある等の問題が生じていた。
そこで,工業試験場では,横置円筒型タンクの設計および有限要素法(以下,FEM)解析1)2)による強度評価により,最大3000kNの航空機荷重にも耐え得るタンク構造の開発を支援したので,その内容を報告する。

2.内  容
 2.1 防火水槽設計の現状と問題点
鋼板を溶接して製造される円筒構造の防火水槽は,圧力容器のJIS規格(JIS B 8270)に基づいて鋼板厚みや補強材の検討を行っていた。しかしながら,この方法は各部品単位で強度計算を行う簡易的なものであり,また,地上に最大250kNの自動車荷重が負荷される土圧を想定した計算事例しかないことから,それ以上の荷重を受ける箇所へは適用できないという制約が生じていた。そこで,250kN以上の荷重が負荷される場合の横置円筒型タンクの構造設計手法を確立する必要があった。

2.2 防火水槽の基本設計
設計対象となる横置円筒型タンクの基本構造を図1に示す。タンクの大きさは,貯水量が常時40m3以上で,タンク底面が地上から4.5m以内とするものと消防法に定められており3),これに基づきタンク上面が地下1mの位置になるように全体容量およびタンク直径を算出することとした。さらに,水槽内部に配置する補強リングの数量は,水槽を埋設したときにその周辺土砂から受ける土圧が一様に分布するという圧縮リング法の理論に基づく荷重4)を想定して,「JIS B 8271 5.6 円筒胴および円すい胴の強め輪」に定められている設計手順に従って算出することにした5)。なお,鋼板は,防火水槽で標準的に使用されている9mm厚のものを用いることにした。

図1 防火水槽図面

図2 FEM解析モデル
2.3 FEM解析
2.3.1 3次元CADによる設計とFEM解析
表1 鋼板の物性値


図3 航空機荷重の設計条件
前節で示した設計仕様に対し,まず工業試験場の3次元CAD(I-DEAS:米国SDRC社製)によってモデリングを行った。さらに,設計モデルから容易に体積を計算できる機能を利用し,全容量を確認しながらタンク直径を算出した。また,補強リングの数量およびその寸法形状の設計は,FEM解析による応力評価を実施した。本CAD/CAEシステムでは,CAD上で設計した形状データを直接解析モデルに利用することができるため,今回のような大型構造物の設計評価には非常に有効とされる。
2.3.2 解析モデル
FEM解析に用いる3次元モデルを図2に示す。本解析モデルは対称形であるためタンクの半分のみを解析の対象とし,薄肉構造のためシェル要素によってモデリングを行った。そして,表1に示す鋼板の物性値を用いて円周方向に72等分,軸方向に30等分して解析用メッシュを作成した。
2.3.3 荷重条件
航空機荷重の鉛直方向の負荷条件は,図3に示すように,地中構造物に作用する鉛直方向の地中応力が45°に分散するとした「空港排水施設・地下道・共同溝設計要領6)」に従って最大荷重を算出して,その最大値を水槽上面全体に均一に負荷した。また,水平方向の負荷条件は,各地下深さにおける鉛直方向地中応力に0.5を乗じた値を負荷した6)。このようにして求められた航空機の荷重条件を図4に示す。
埋設する防火水槽の周辺土砂から受ける鉛直土圧および水平土圧も同様に,「空港排水施設・地下道・共同溝設計要領」に従って算出して与えた。
2.3.4 拘束条件
防火水槽の拘束条件は,実際に埋設されている状態を考慮して,地盤を連続するばねとして考える弾性地盤反力法7)を用いて,図5に示すように,水槽外面の下面90°部分に地盤ばねと呼ばれる拘束条件を与えた。また,水槽の最下面は変位しないとする完全拘束条件を与えた。

図4 航空機荷重条件

図5 拘束条件
2.3.5 解析結果
以上の解析条件を用いてFEM解析を行った結果を図6に示す。変位および応力の分布は,数値の大小に伴って濃淡で表示されるため,変位量が大きい箇所や応力集中が発生している箇所を容易に判断することができる。これらの結果から,変位は水槽中央部上面が大きくなり,内部リブに応力集中が発生していることが分かる。また,最大応力値が材料の許容応力値より大きな値を示している。そこで,水槽全体の肉厚は変えずにリブの肉厚および個数を変更して,最大応力値が材料の許容応力値内に収まるように設計およびFEM解析を繰り返した。その結果,リブの厚みを当初設計値の2倍以上にした場合,図7に示すように,最大応力値を許容応力値内に抑えることができた。尚,許容応力値は当社の強度実証済みモデルから同様の手法で算出したものを採用した。
2.4 考 察
2.4.1 荷重条件による影響

(a) 変位分布

(b) 応力分布
図6 防火水槽のFEM解析結果

図7 最終モデルの応力分布
実際に水槽が埋設されるとき,地上構造物から受ける荷重や水槽の荷重負荷位置が不均一になることが想定される。そこで,安全率を考慮しながらこれらを変化させて,合計17種類の荷重条件についてFEM解析を行った。各荷重条件における最大応力値は,図8に示すように,全て許容応力値内になることを確認した。
2.4.2 FRPによる補強の影響
以上の手法を用いて,タンク鋼板の変形挙動および応力分布を検討することが可能となった。しかしながら,実際に施工される防火水槽は,図9に示すように,錆を防ぐためにその内外面をGFRP(Glass Fiber Reinforced Plastics:ガラス繊維強化プラスチック)で補強した構造(FSF)となっている。本解析では鋼板のみをモデル化しているが,FRPは鋼板と比較して剛性が弱く,FRPと鋼板の複合材料における強度は鋼板より大きいことが知られているため8)9),FRP付加による構造物の強度低下は起こらず,前述した解析モデルで問題ないと考えられる。

図8 荷重条件における最大応力値の割合

図9 防火水槽の構造
一方,構造物が塑性変形した場合の鋼板とFRPの接着性を調べるため,曲げ試験(RTC-2410A:潟Iリエンテック製)を行った結果を図10に示す。鋼板が塑性変形してもFRPの損傷が見られないことから,鋼板の構造検討のみで防火水槽の安全が確認できることが分かった。
これらの結果に基づいて製造された防火水槽を図11に示す。

3.結  言
円筒型タンクの設計およびFEM解析による強度評価を行った結果,以下の結論を得た。
(1) FEM解析を用いて実物と同じ構造の強度解析を行うことにより,これまでの簡易的な手法に比べて精度が向上した。

図10 曲げ試験結果

図11 横置円筒型防火水槽
(2) 3次元CADとFEM解析を併用した円筒型タンクの構造設計手法を導入することによって,今までに事例がなかった3000kNの土圧を想定した設計技術が確立された。

参考文献
1) 戸川隼人:マイコンによる有限要素法解析,培風館,p.59-60(1999)
2) 山田芳昭,山本善之,川井忠彦:有限要素法ハンドブックT基礎編,培風館,p.3-17(1981)
3) 消防法規
4) コルゲートメタルカルバート・マニュアル 第3回改訂版,社団法人地盤工学会,p.121-122
5) 圧力容器の銅及び鏡板 JIS B 8271,日本規格協会(1993)
6) 財団法人 港湾空港建設技術サービスセンター,空港排水施設・地下道・共同溝設計要領,p.46-62(1999)
7) 最新基礎設計・施工ハンドブック,褐嚼ン産業調査会,p.229-230(1977)
8) 機械工学便覧,日本機械学会編,p.A4-110,p.4-7(1989)
9) 複合材料ハンドブック,日本複合材料学会編,p.245-249(1989)



* トップページ
* 研究報告もくじ

概要のページに戻る