技術ふれあい '99発表会要旨集
石炭灰の窯業原料への有効利用
化学食品部 ○北川賀津一 山名一男 中村静夫


1.目的
 石炭灰は平成3年10月に施行された「再生資源の利用の促進に関する法律」(いわゆる資源リサイクル法)では電気事業用火力発電所から出る石炭灰は電気業の指定副産物として指定され、有効利用を促進するよう義務づけされている1)
 石川県では、石炭火力発電所が平成7年度に七尾市に1号機が、平成10年度に2号機が営業運転を開始した。その結果、500トン/日という大量の石炭灰が発生している。これらの廃棄物は他県でのセメント原料として使用されているが、地域においてはその利用は皆無である。そこで、耐火断熱れんがの産地という七尾市地域の特徴を活かした窯業原料への有効利用法を検討することが必要となっている。
 これまで七尾大田火力発電所から発生する石炭灰を用いて、炭酸カリウムの添加による低温焼結を耐火断熱れんがについて検討してきた2)。今回、石炭灰が主にガラス質からなることに着目して、シリカ源とアルミナ源として用い、水酸化アルミニウムをアルミナ源、タルクをマグネシア源として用い、コーディエライト素地の作製を試み、より高性能の耐火断熱れんが(JIS B類2種、表1)の開発を試みた。

2.内容
2.1 コーディエライトについて
 断熱性能を持たせるため、石炭灰におが屑を混合して焼成を行った。おが屑はほとんどがセルロース、ヘミセルロース及びリグニンであるので、600℃付近で焼成すると燃焼する。その燃焼した後は空気の空隙となる。空気は熱伝導率が低いので、この手法は断熱れんがの製造法として多用されている。
 石炭灰を原料とする耐火物としてはコーディエライトも考えられる。コーディエライトは熱膨張係数が低いので、急熱急冷の繰り返される場所に耐スポーリング性材質として使用するのに適している。コーディエライトの相図は図1のように表されている3)

表1 JISによる耐火断熱れんがの分類(JIS R2611)

種類 再加熱収縮率
2%をこえない
温度(℃)
かさ比重 圧縮強さ
[kgf/cm2][N/mm2]
熱伝導率
(平均温度±10℃)
[kcal/m・h・℃][W/m・k]
B類 1種 900 0.70以下 25以上[2.45] 0.17以下[0.20]
2種 1000 0.70以下 25以上[2.45] 0.18以下[0.21]
3種 1100 0.75以下 25以上[2.45] 0.20以下[0.23]
4種 1200 0.80以下 25以上[2.45] 0.22以下[0.26]
5種 1300 0.80以下 25以上[2.45] 0.23以下[0.27]
6種 1400 0.90以下 30以上[2.94] 0.27以下[0.31]
7種 1500 1.00以下 30以上[2.94] 0.31以下[0.36]


図1 コーディエライトの相図


2.2 石炭灰について
 石炭灰の主成分はシリカとアルミナであり、この無機質で全体の70〜80%を占めている。構成相としては石英、ムライト及びガラスからなっていた。石炭灰は中空の微粒子からなるので、ハンドリングが難しく成形しにくい。そこで成形助剤には優れた成形性を示す、糖類の一種であるβ-1,3-Gulucan(以後グルカンと略す)を用い、プレス法を用いて作製することとした。

図2 石炭灰とおが屑混合物の示差熱重量分析


2.3 断熱れんが試験片の作製とその物性評価
 石炭灰に炭酸カリウムを2wt%、グルカンを1wt%、おが屑を適量加えてビニール袋中で乾式混合後、水を加え含水率29wt%に調製し練土を作製した。試験片は10mmφの円柱状にプレス成形後、炉底昇降式電気炉にて1000℃で焼成した。
 成形物の示差熱重量分析結果を図2に示す。300℃と500℃に2つの発熱ピークと重量減少が観測された。おが屑はセルロースを主体とした化合物から構成され、グルカンも類似の化学構造式をもつので、この2つの発熱ピークはおが屑とグルカンの骨格構成有機物が分解燃焼して重なり合って生じたものと推定される。
 断熱れんが試験片のかさ比重を下げることを目的に石炭灰原料に対するおが屑の添加効果について検討した。かさ比重の測定値を図3に示す。石炭灰のみの焼成体のかさ比重は1.4であった。かさ比重は30%以上のおが屑を添加すると大きく減少をし始め、50%のおが屑を混合した場合の焼成体のかさ比重は0.99にまで減少した。おが屑を50%添加することで約30%の空孔が形成された。圧縮強度はおが屑を添加することで低下するが、JIS R2611に規定されるB類2種の耐火断熱れんがの規格値以上となった。
 X線回折パターンの結果、おが屑を入れずに焼成した場合の結晶相の主成分は石英とムライトであり原料粉末と同様のX線回折パターンを示した。一方、おが屑を添加した焼成体は石英、ムライト、クリストバライトから構成されていた。

図3 断熱れんが焼成体のかさ比重


2.4 コーディエライト試験片の作製とその物性評価
 石炭灰100gに対して水酸化アルミニウム63g、タルクを70g秤量した。さらにグルカンを石炭灰に対して2wt%加えボールミルで乾式混合した。その後、水を加え十分に混練し、約2日間40℃で熟成した。この試料を42メッシュの篩で篩った後、10mmφの円柱状にプレス成形を行った。試験片は350℃と550℃で温度を保持した後、1000〜1450℃の温度範囲で焼成した。
 焼成した試験片はかさ比重、収縮率、吸水率を測定した。物性測定はJIS R1601に準拠した曲げ強度、粉末X線回折分析、示差熱重量分析、熱 
膨張係数測定、走査型電子顕微鏡観察を行った。
 成形物の示差熱重量分析結果を図4に示す。250〜280℃に吸熱ピークが観測された。これは原料の一つである水酸化アルミニウムの脱水反応が進み酸化されたものと推定される。断熱れんが試験片の場合に観測されたグルカン、おが屑の分解燃焼反応に伴う発熱ピークは、重量比的に水酸化アルミニウムより少ないために明瞭には観察されなかった。原料構成物がコーディエライトに変化する過程はブロードであった。
 次に焼成体のX線回折分析結果を検討した(図5)。構成鉱物相は次のように変化した。
・クリストバライト、石英、ムライト―1000〜1100℃
・コーディエライト、クリストバライト(微量)―1200℃
・コーディエライト単相―1300℃以上
コーディエライト化は1200℃以上で生じ、1300℃以上ではコーディエライト化が顕著になった。
 焼成体のかさ比重と焼成温度の関係を図6に示す。かさ比重は1100℃において1.63となり、ほぼ一定値を示した。BET比表面積は0.6m2/gであり、コーディエライトの理論密度を2.50とすると気孔率は35%となった。コーディエライトの曲げ強度は一般的に245MPa4)であるが、緻密な焼結体を得ることは難しい。本実験の試作品では空孔、不純物、ガラスを含むため、最大曲げ強度は1300℃焼成試料の50MPaであった。
 コーディエライトは六方晶系の結晶構造をもち、熱によってa軸に膨張してもc軸方向に収縮するため低い熱膨張係数を示し注目される。熱膨張係数の値を調べると図7の結果が得られた。最小の熱膨張係数は1300℃と1350℃焼成で、2.1×10-6/℃の値が得られた。既報の値(1×10-6/℃)4)よりも大きいのはアルカリ金属など不純物の含有によるものと考えられる。しかし、汎用ガラスの熱膨張係数9×10-6/℃の値と比較するとかなり低いものが得られた。以上よりコーディエライト素地の作製には1300℃〜1350℃の焼成温度が最適であることがわかった。

図4 コーディエライト質耐火物用混合物の示差熱重量分析 図5 コーディエライト質素地のX線回折パターン
図6 コーディエライト質素地のかさ比重 図7 コーディエライト質素地の熱膨張係数

3.結果
 石炭灰の窯業原料へのリサイクル研究を行い、以下のことが明らかになった。
(1)石炭灰に炭酸カリウムを2wt%、グルカンを1wt%、更におが屑を加え、1000℃で焼成を行うと、石英、ムライト、クリストバライトからなる焼成体(かさ比重0.99、気孔率30%)が形成された。JIS B2れんがに使用するには、多孔性をもたせてかさ比重を下げれば可能であり、使用の目途がたった。
(2)石炭灰にタルクと水酸化アルミニウムを配合し、1300℃〜1350℃で焼成すると、コーディエライト素地を作製でき、今後も活用される分野の調査を継続的に実施することとしている。この素地の熱膨張係数は2.1×10-6/℃であった。

謝辞
 本研究は重要地域技術研究開発共同研究事業(名古屋工業技術研究所との共同研究)の一環であり、工業試験場「石炭灰有効利用実用化検討会」で研究事業を推進してきた。また、当研究を進めるに当たり、ご協力を頂いた金沢工業大学大橋憲太郎教授にお礼申し上げます。

参考文献
1)環境技術協会・日本フライアッシュ協会:石炭灰ハンドブック(1995)
2)通商産業省工業技術院総務部地域技術課,通商産業省工業技術院名古屋工業技術研究所:重要地域技術研究 開発制度,陶磁器の成型法を利用したファインセラミックスの成形技術,研究成果報告書,p.369-433(1999)
3)ファインセラミックス事典編集委員会編:ファインセラミックス事典,技報堂出版,p.177-186(1987)
4)B.H.Mussler and M.W.Shafeer:Ceram.Bull.,Vol.63,p.705-14(1984)


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