技術ふれあい '99発表会要旨集
キトサン系樹脂の機能性向上
化学食品部 ○吉村 治  根上工業(株) 吉本克彦
石川県技術アドバイザー 隅田 弘(金沢大学名誉教授)
金沢大学工学部 上田一正


1.目的
 プラスチックは利便性の高い材料であるが、廃棄処理が難しく、最近燃焼する際に発生するダイオキシンが環境ホルモンの一つとして社会問題となっている。この問題に対処するために環境負荷低減素材として生分解性プラスチックが期待されているが、高コストで機能制御が難しいため汎用するには至っていない。この中、キトサンとポリビニルアルコール(PVA)を複合化した樹脂は機械的強度が高く、透明性、表面平滑性に優れ、生分解性のみならず抗菌性を有するなど機能性材料として注目されている。
 本研究では、キトサン−PVA系樹脂の機能性を向上させるため、マトリックス成分であるキトサンやPVAの分子量、鹸化度等に着目し、種々の組成比からなるフィルムを調製することにより物性や機能性を評価した。

2.内容

図1 酸素分解促進試験方法

2.1 フィルム調製法
 10%キトサン酢酸溶液と10%PVA溶液に各種可塑剤、架橋剤を混合、減圧脱泡し、平板上に流延後、乾燥或いはアルカリ処理を行い、試験用フィルムを作製した。

2.2 物性及び機能性評価法
 引張強度、伸び率、耐水性等はJIS法に準じ測定した。生分解性については土中埋込試験、BOD試験(生物化学的酸素要求量)、海水浸漬試験や図1に示す酵素分解促進試験(キトサン分解酵素であるキトサナーゼ等を植種)を実施して、赤外分光分析(FT−IR)や電子顕微鏡観察により分解挙動を解析した。また抗菌性試験を課し、調製フィルムの抗菌能を評価した。


2.3 キトサン−PVA系樹脂の効果
 PVAについては、分子量3.5〜12万、鹸化度78.5〜99.5%を用いてフィルムを調製し、物性試験及び生分解性試験を実施した。図2に鹸化度による引張試験の測定結果を示す。いずれの比率においてもPVA単独フィルムに比較して引張強度が増加し、複合化の効果が認められた。また鹸化度が高くなるほど強度も高くなる傾向を示し、各鹸化度では2:8或いは3:7で最大値を得た。PVA分子量については、分子量の増加と共に大きくなり7〜10万の領域で極大値を示した。
 PVA分子量別の土中埋込試験結果を図3に示す。低分子量のフィルムは高分子量に比較してフィルム残存率の低下を示し土中では早く分解する傾向を認めた。同様に、耐水性試験においても分子量に依存して残存率の低下が見られたが、4週間以降は残存率の低下はほぼ一定となり、水のみでは分解が進行しないことが確かめられた。
 FT−IRにより分解挙動を検討したところ、いずれのフィルムにおいても埋込初期にはキトサン比率の上昇を示した。これは土中の水可溶成分が溶出し、相対的にキトサン比率が高くなったためと考えられる。それ以後は、残存率の低下と共にキトサン比率も減少していくことから、微生物がキトサン成分を分解していることを確認した。従ってフィルムの生分解過程として、埋込初期は主として土壌水によるフィルム溶解が起り、その後土中微生物の代謝による分解が促進されることが判明した。
 生分解性の評価方法としての土中埋込試験は実際の環境下で試験を行うため必要不可欠であるが、長期間を要し再現性が低い。そこで僅かな試料で再現性、定量的に優れたデータの得られる酵素分解促進試験を行った。キトサナーゼによりどのフィルムも分解されたが、鹸化度の高いフィルムでは分解過程が殆ど確認できなかった。これは、高鹸化度になるに従い、キトサンと相互作用を起こす水酸基が増え、フィルムの剛直性が高くなるためと推定される。


3.結果
 キトサン−PVA系樹脂の物性、機能性はマトリックス成分であるPVAやキトサンの成分により制御が可能であると考えられる。今後は具体的な商品化を目指したインテリジェント材料化並びに広範な用途への開拓手法に役立てていきたい。


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