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1.目的
着心地の良い衣服の条件として,[1]生地の肌触り(風合い)が良いこと,[2]身体への圧迫感が少ないこと,[3]衣服内の温度・湿度が適度な状態に保たれていること,などが挙げられる。特に高齢者の場合,身体の発汗機能の衰えや産熱量の減少により,外気の変化に応じて体温を調節することが難しいため,衣服の着用によってその働きを補う意味で[3]の要素が最も重要と考えられる。
本研究では,「軽い,暖かい,蒸れにくい,肌触りが良い,動き易い」などの快適機能を兼ね備えた織物を開発することを目的とした。ポリエステル仮より加工糸や綿糸などを使用して各種織物を試作し,上述した快適機能に関連する物性値を測定するとともに,衣服着用時の主観的な着心地を評価するために着用実験と官能検査を行った。これらの結果に基づき,快適性が高いと判断した織物を用いて、高齢者用の衣服を製作した。
2.内容
2.1 織物の物性値の比較
今回試作した織物の設計表を表1に示す。(a)について,起毛による快適性への影響を検討する目的で,起毛しない生地(1A〜9A)と,起毛加工した生地(1B〜9B)を準備した。
表1 織物の設計表
| たて糸 | よこ糸 | 組織 | ||
| (a) | 1 | ポリエステル仮より加工糸 75D/36F Z350T/m |
[1]ポリエステル×綿(30/70) 32S/1 コアヤーン |
5枚朱子 (5枚3飛) |
| 2 | [2]ポリエステル×ベンベルグ×綿 (30/35/35) 30S/1 | |||
| 3 | [3]綿 30S/1 | |||
| 4 | [4]ポリエステル仮より加工糸 150D/48F | |||
| 5 | [5]ポリエステル中空仮より加工糸 185D/48F | |||
| 6 | ポリエステル中空仮より加工糸 185D/48F Z350T/m |
[1]ポリエステル×綿 (30/70) 32S/1 コアヤーン |
平二重 | |
| 7 | [2]ポリエステル×ベンベルグ×綿 (30/35/35) 30S/1 | |||
| 8 | [3]綿 30S/1 | |||
| 9 | [5]ポリエステル中空仮より加工糸 185D/48F | |||
| (b) | 10 | ポリエステル糸 50D/36F 無撚 |
ポリエステル高異収縮混繊糸 収縮率40%,7% 75D/60F S400T/m |
破れ斜文 |
| 11 | ポリエステル中空糸(カスク) 140D/36F 1500T/m S,Z 2本交互 |
平 | ||
各々の生地について,物理特性(目付,厚さ,通気性),基本風合い特性(こし,はり,ふくらみ,しゃり,きしみ,しなやかさ),熱水分移動特性(保温率,K値)を測定した。K値とは,試料を透過した顕熱と潜熱の比で,Kが大きいほど潜熱の寄与が小さく,蒸れにくいことを示唆する1)。(a)の場合,1A〜5A(たて糸:ポリエステル仮より糸)は,6A〜9A(たて糸:ポリエステル中空仮より糸)に比べて,保温性では僅かに劣るものの,風合い(ふくらみ,しなやかさ)が高く,K値はほぼ同等であった。1A〜3A(よこ糸にセルロース系繊維を含む)は,4A,5A(セルロース系繊維を含まない)に比べて保温性,K値が優れていた。また,起毛加工した生地(1B〜9B)は,起毛していない生地(1A〜9A)に比べると、厚さ、ふくらみ,しなやかさ,保温率はやや高いが,通気性とK値は減少する傾向がみられた。熱水分移動特性に着目すると,1A〜5Aと6A〜9Aで顕著な差はなく,綿などの親水性繊維を含み,かつ起毛加工していない織物の方が優れているようである。(b)に関しては,親水性繊維を含まないにも関わらず,保温率とK値は(a)より若干高くなっていた。これは,(b)の生地に空気含有率の
高い糸(異収縮混繊糸,中空糸)が用いられ,かつ(a)より薄地で通気性が高いことに起因すると考えられる。
2.2 着用実験による快適性評価
2.1で快適性が高いと評価した生地(1A〜3A,6A〜8A)の中から,保温率とK値が高い1Aと7Aをそれぞれ選び,起毛した生地(1B,7B)も含めて衣服を作製し着用実験を行った。被験者は20〜50歳代の男女9人で,エルゴメーターによる運動の後,衣服内の蒸れが減少するまで安静にした。実験中の衣服内湿度変化(図1)において,運動中の衣服内湿度は1Aが最も低くなっており,蒸れにくいことが判る。また衣服内温度は,1A,7Aに比べて1B,7Bの方が僅かに高くなる傾向が認められた。一方,官能検査より得られた着衣時の主観評価値(表2)によると,4種類の生地の中で1Aが総合的に最も快適性が高いと評価された。従って2.1での考察と同様,生地を起毛加工することによって衣服内の保温性は良くなる反面,蒸れ感が増大すると考えられる。
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表2 快適性主観評価値
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| 図1 衣服内湿度変化 |
3.結果
今回試作した織物生地について物性測定と着用実験を行った結果,糸および組織の空気含有率が高く,綿などの親水性繊維を含む織物が快適機能をより多く兼ね備えていることが分かった。また,生地に起毛加工を施すと保温性は若干高くなるが,衣服内の蒸れが増大して逆に不快となる傾向がみられた。なお,今回試作した織物の中から快適性の高い6点(1A,3A,7A,9A,10,11)を用いて高齢者用室内着(ブラウス,シャツ,ジャケット,ブルゾン)を計10着製作し、各種展示会等に出品した。
参考文献
1)松本義隆,新保善正,中村清光,繊維加工増刊捺染手帳29,Vol.43,p.631-636(1991)
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