化学食品部 田畑裕之
2.1 ラメラの積層構造
1)Ti-46mol%Al PST結晶の組織
ラメラの積層構造を調べる目的で、試料全体が一個のラメラからなる Ti-46mol%Al PST結晶(単結晶様の結晶)を育成した。図1にその電顕組織を示す。写真はラウエ法により方位を決定した上で、正確に積層面真横から撮影したものである。これより、白く明瞭に見える薄層部分がα2相で平均の厚さは0.3μmであった。その他の部分がγ相で、強く腐食したのでγ/γ界面も見受けられ、一枚のγ板の厚さは平均約 0.6μmであった。また、一枚のγ板の中には腐食の程度に差があるドメイン(微結晶)の存在が認められる。ドメインの積層面方向のサイズは不鮮明ながら、数μmから数十μmと推察される。
2)α2相とγ相およびγ相中のドメイン相互の方位関係
さて、ラメラ組織の形成は、α(α2)相 からγ相が板状に析出することによるが、このとき両相の間には最密面と最密方向がそれぞれ平行な結晶学的方位関係が成りたつ。その結果、結論から言えば元のα2相に対して析出するγ相はα2相の対称性のゆえに相対的には一通りであるが、γ相同志の間には6通りの方位関係があり得る。そしてこれらは、一枚のγ板の中にもドメイン(微結晶)として存在し得る。このことは、六方晶のα2-Ti3Alが積層方向の<0001>軸に関し6回回転対称であるのに対して、正方晶のγ-TiAlはc軸がa軸よりわずかに長い(c/a=1.016)ことにより、積層方向の<111>軸に関し正確に3回回転対称にならないために起こる。図2および図3には、積層面真上から見たα2とγの相対的な積層関係を示す。また図4には、図3の標準投影図の簡略図を用いてγ相中の6種のドメインの方位関係を表す。図4中のドメインは、α2の{0001}底面からγが析出する際の上下の方向によって、まず2組に分類される。これらのドメイン同志は互いに120゚回転した(オーダードドメインの)関係にあり、一枚のγ板中にも存在し得る。次に上下の異なるγ板間では、同列のドメイン同志は双晶(180゚回転)の方位関係に、その他の組み合わせは擬双晶の関係にある。したがって、γ相中の6通りのドメインはそれぞれ互いに60゚回転の関係にある。


上述のとおり6通りの方位関係をもつドメインのγ相中の分散状態を知る目的で、透過ラウエ法による測定を行った。図5はγ-TiAl単結晶の(111)面、およびTi-46mol%Al PST結晶の積層面にそれぞれ平行に切り出した薄片に40kV Mo線を垂直入射して得られた透過ラウエパターンである。なお、試料の厚さは250μm、コリメータ径は1mmφとした。その結果、Ti-46mol%Al PST結晶の透過ラウエパターンは、斑点形状が放射線方向にのみ縦長となり、マクロ的には完全な六回回転対称を示した。このことは、[111] 軸を回転中心とし互いに60゚回転の関係にある6つのドメイン(γ単結晶)の回折斑点が重なって現れることにより、かつ、それらの存在確率がX線の透過域の範囲で等しいことを意味する。なお、図中下段には、γ単結晶の主要な回折斑点とそれらの重ね合わせのシミュレーション結果を示す。
