機械電子部 坂谷勝明・廣崎憲一
2.1 加工原理および実験方法
本加工法は、磁性流体を利用した比重差選別法に着想を得て開発したものである。磁性流体中に砥粒を混入した磁性スラリーを容器に入れ、その下部に取り付けた電磁石のコイルに電流を流すと、磁性流体は電磁石に引きつけられて、見かけの比重が増加することになる。このため、磁性流体中に懸濁している砥粒に力が作用して浮き上がる。この電磁石を円盤状の強力な永久磁石に置き換え、それを黄銅製の回転工具(ポリシャ)内に組み込んで加工工具を形成する。所定量の磁性スラリーをポリシャ外周面に吸着させると、スラリーは重力の作用を受けるが磁石の吸引力が強いため流れ落ちることはない。また、磁性流体中の砥粒は磁性流体の粘性や表面張力によって流体内部に保持されるため、ポリシャが回転すると、砥粒は磁性流体とともに回転して、砥石の砥粒のように加工面に作用する。
図1に、新しく開発した磁場可変型磁気研磨装置の概略図を示す。装置は、2つの回転軸から構成されている。上側の軸1の先端には外径96mmの黄銅製のポリシャ2が固定されている。ポリシャの内部には、ネオジ(Nd-Fe-B) 製のリング状永久磁石(表面磁束密度0.35T)3が組み込まれ、回転軸に沿って移動可能な構造となっている。ポリシャの両側にはアクリル製のガイド4が取り付けられ、磁性スラリー5が常にポリシャの外周面に吸着するようになっている。下側の回転軸6の先端には、加工試料7を固定するための試料台8が取り付けられている。回転軸は中空のパイプ状で、内部には移動可能なマンガン・アルミニウム(Mn-Al) 製の円筒形永久磁石9が組み込まれている。この磁石を中心軸に沿って動かすことにより、磁場の強さを制御できる。永久磁石の位置と加工点付近の磁束密度の関係を図2に示す。回転軸はスライドテーブル上に固定され、ポリシャと加工物との間のすきま(クリアランス)は、マイクロメータヘッドを用いてスライドテーブルを動かして調整する。
磁性スラリーは、研磨の研究によく使用される水ベースとケロシンベースの磁性流体(タイホー工業製、フェリコロイド W-40、HC-50)にアルミナ砥粒(粒径 0.06、0.3, 1, 3μm)を混入したものである。1回の研磨毎に 5mlのスラリーをポリシャ外周に吸着させた。加工試料は、ポリシ加工された厚さ0.6mm のシリコン単結晶ウエハから20mm角の試験片を切り出して作製した。研磨実験は、加工物試料の回転中心から半径 2.5mmの位置で、円形の溝加工を行った。加工条件を表1に示す。加工した溝の断面形状と表面粗さ測定には触針式表面粗さ計を用いた。
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次に、ポリシャ側磁石をポリシャ厚さ方向にずらした場合の影響について述べる。図5は水ベース磁性流体を用い、試料側磁石の位置を変えた場合の実験結果である。図はほぼ左右対称の形になっており、磁石位置移動による磁場強度の変化を受けているが、その変化量は加工物側磁石の場合に比べ小さいことがわかる。また、加工物側永久磁石が加工物から遠いほどポリシャ側永久磁石の影響が大きく、水ベースの磁性流体に比べ、ケロシンベースの磁性流体の方が研磨深さが大きくなっている。
次に、ケロシンベースの磁性流体についても水ベースの場合と同様の実験を行った。実験結果を図6に示す。ケロシンベースの研磨溝深さの変化様態は、水ベースと同様の様態を示すことがわかる。しかし、研磨溝深さの値はケロシンベースの方が水ベースよりもかなり大きい。これは、砥粒の各磁性流体に対する親和性が影響しているものと考えられる。
参考文献
1)黒部利次:FFF加工、光技術コンタクト、32, 2 (1994) 115.
2)T. Kurobe, O. Imanaka:Magnetic Field-Assisted Fine Finishing, Prec. Eng., 6, 3 (1984) 119.
3)黒部利次、示野和弘、今中治:磁性流体利用の作用砥粒数制御研磨、精密工学会誌、54, 8 (1988) 1525.
4)坂谷勝明、黒部利次、鈴木繁成、広崎憲一:磁性流体を利用したGLP(Grinding-Like Polishing)の研究(FFF)、精密工学会誌、61, 11(1995) 1555.