マイクロカプセル染料の拡散測定

繊維部 沢野井康成・新保善正

  1. 目的
     染色工業では、水資源や排水処理面で優れる染色法の開発が望まれている。ポリエステルの非水染色法の一つとして、昇華性色素と磁性体を含有するマイクロカプセル(以下、MC染料)を用いる方法を考案した1)。この染色法の技術開発において、MC染料のポリエステルへの拡散性測定は重要であるが、このようなカプセル化色素材料の拡散試験法に関した報告はない。
     本報では、カプセル化昇華色素材料のポリエステル基質への拡散性を測定する方法を提案し、この方法を用いて、MC染料の拡散性をモデル分散染料と比較した結果について報告する。

  2. 内容
    2.1 実験
     モデル分散染料として1-アミノアントラキノン(1-AAQ)、MC染料として1-AAQと磁性粉末をアクリル系樹脂でカプセル化したもの(平均粒子径:12.8μm)を使用した。上記の各染料をポリビニルアルコール水溶液中に均一に分散させた後フッ素樹脂フィルム上に塗布し、室温で24時間、70℃で5分間乾燥して供試原色フィルムを作製した。これを直径10mmの試験管の周囲に巻きつけ、その上にポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚さ:12.5μm)を巻層した後直径30mmの試験管内に固定し、熱風乾燥器を用いて種々の温度T(℃)でt分間熱処理した。その後、巻層したPETフィルムを展開して各層を切り取ったものをο-クロロフェノールに溶解し、分光光度計によりPETフィルム中の平均染料濃度C(mol/g)を測定した(図1参照)。
図1  拡散試験法
図1 拡散試験法

    2.2 拡散係数の算出
    上記の拡散試験で、染料の拡散が最外層のPETフィルムまでおよんでいない場合の拡散は、一端が有限系での自由拡散である。ここで、拡散係数D(cm2/s) がPETフィルム中で一定で、拡散が一次元的、すなわち濃度勾配がχ軸方向のみの場合、拡散物質の濃度をC、時間をtとすると、式(1)に示すFickの第二法則に従う。さらに、位置χ=0に総量Mの拡散物質(染料)がδ関数分布により存在するときには、式(1)から導いた式(2)が与えられる2)。式(2)の両辺の自然対数/をとると、式(3)になる。式(3)より、換算距離χ2/4tに対するPETフィルム中の平均染料濃度の自然対数lnCのプロットは、直線の関係を与える。よって、その傾き(-1/D)がわかると、Dを求めることができる。
数式
    ここでAは常数、χは拡散距離であるが、本実験ではPETフィルムの厚さより求めた。

  1. 結果
    開発した装置の特長
     上述の方法で、170℃(21分)、180℃(16分)、190℃(12分)、200℃(8分)の熱処理をおこなったMC染料の結果を図2に示す。これから、各温度のプロットは、良好な直線関係上にあり式(3)を満足することがわかった。一方、1-AAQにおいても同様な結果がえられた。よって、今回の拡散試験法は、昇華性色素材料の拡散試験に適用可能であると考える。
     MC染料および1-AAQに関して、式(3)を用いてD値を算出し、 1/Tに対しアレニウス・プロットした結果を図3に示す。ここで、いずれも直線関係がえられた。なお、この直線部分の傾きは、拡散の活性化エネルギーΔE(kJ/mol)に比例する。したがって、MC染料と1-AAQのΔEには、特に大きな差はないものと考えられる。このことは、染料の昇華過程において、カプセル化の影響はそれほど大きくないことを示唆する。
図2図3

     
    参考文献
    1)特開平9-13284
    2)J.Krank,“The Mathematics of Diffusion”,2nd ED.,Chap.2(1975)


前のページへ戻る