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1.目 的 近年,電子産業,機械産業などの様々な分野で機械の小型化,薄型化の必要性が増加している。このような機械の微小化が進むのに伴い,部品の検査や加工において,ナノレベルで変位を制御できるアクチュエータの必要性が増加している。従来の電磁モータによる位置決め装置でナノレベルの高分解能を得るためには,微動機構が必要となり装置が複雑化,大型化する。また,半導体やバイオ関係の位置決め装置としては,電磁ノイズの発生が問題となっている。超音波アクチュエータを用いたリニアステージは,小型軽量,高分解能であること,また,電磁ノイズを発生しないこと,真空環境への対応が容易であること等の特長により,新たな高精度位置決め装置としての応用が期待されている。 超音波アクチュエータは一般に振動子と移動子から構成される。振動子の設計過程では,所定の固有振動モードを組み合わせる必要があるため,これまでに設計された振動子の基本形状は,おもに矩形や円筒状といった単純な形状であった。しかし,リニアステージに用いる超音波アクチュエータの場合には,振動子形状を工夫して振動モードを組み合わせる必要があることから,所定の楕円運動を効率よく生成できないという問題点があった。 そこで本研究では,高精度,高推力の超音波リニアステージを開発することを目的とし,効率よく楕円運動を生成できる超音波アクチュエータ構造について,有限要素解析により検討を行った。さらに,得られた超音波アクチュエータ構造を適用したリニアステージを試作し,動作性能評価を実施した。 2.内 容 2.1 超音波アクチュエータの駆動原理 超音波アクチュエータの駆動原理を図1に示す。超音波振動により,振動子左面に設けられた突起に楕円運動を生成する。この突起の先端を移動子に接触させると,移動子は下方に送り出されるように間欠的に接触し,下方向に移動する。また,楕円運動の回転方向を反転させることにより,移動子を上方向に移動することができる。 (図1 超音波アクチュエータの駆動原理) 2.2 超音波アクチュエータの構造 本研究では,図2に示すような4個のセラミック圧電素子を振動子の縦,横にそれぞれ配置する構造を考案した。楕円運動を生成するために利用する振動モードを図3に示す。この直交する2つの縦振動を用いることで,縦方向に力を発生するランジュバン型圧電素子の振動エネルギを効率よく利用できる。この方式で楕円運動を生成できる振動子形状を導出するため,有限要素法による固有モード解析,ならびに周波数応答解析を行った。有限要素解析には,汎用有限要素コードANSYS8.1を用いた。解析の結果,図4に示す振動子形状において,直交する2つの縦振動モードの振動数が一致することを確認した。この2つの縦振動モードの時間的位相を90°変えて励振すれば,突起部に楕円運動を生成できる。周波数応答解析の結果,約62.5kHzにて所定の楕円運動を突起部に生成できることを確認した。 (図2 提案した超音波アクチュエータの基本構造) (図3 利用する振動モード) (図4 超音波アクチュエータの構造) 2.3 超音波リニアステージの製作と評価 前節で得られた超音波アクチュエータならびに,それを適用した超音波リニアステージを製作した。図5に外観写真を示す。振動子はアルミニウム材により製作し,移動子にはクロスローラガイド式の精密ステージを採用した。移動子の接触部は耐摩耗性向上のため,アルミニウム材に約30μmの硬質アルマイト処理を施した。振動子は振動モードへの影響が小さい箇所でばねにより支持し,移動子接触部に振動子の突起先端を約30Nの加圧力で接触させた。動作性能試験の結果,最大速度100mm/s,最小分解能10nm以下の性能を有することを確認した。結果の一例を図6に示す。ステージ変位は静電容量型変位計にて測定した。図6では,駆動条件として圧電素子に印加電圧60V,正弦波数50個のバースト波を3回加えている。この条件では,1波数あたりの移動量は約4nmであるといえる。 (図5 超音波リニアステージ) (図6 測定結果) 3.結 果 超精密位置決め装置を開発することを目的に,超音波リニアステージのアクチュエータ構造について有限要素解析を用いて検討を実施した。その結果,効率の良い楕円運動を生成できる振動子形状を導出することができた。さらに,得られた超音波アクチュエータを適用したリニアステージを製作し,性能試験を実施し,目標とする分解能ならびに動作速度が得られることを確認した。今後は,クローズドループによる位置決め性能の評価,ならびに接触部の耐摩耗性向上について検討し,特殊用途向けの超精密位置決め装置として製品化へつなげていきたいと考えている。 |
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