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 デジタルものづくり支援機器による試作開発事例
  機械電子部 ○古本達明 廣崎憲一

1.目 的
 多くのものづくり技術がコンピュータと結びつく中で,CAD技術はその中心を占めている。このCADも今では3次元の時代になり,製造業をはじめ各業界では,3次元のデジタルデータを利用して企画・設計から生産に至るまで各工程の合理化が進められている。
 工業試験場では,3次元CADをはじめとする一連のものづくり支援設備を導入して,県内企業への技術指導を展開してきた。本報告では,これらの中から付加価値の高いものづくりが期待できる5軸マシニングセンタを中心に,加工データ作成から実加工までのプロセスを紹介する。
2.内 容
2.1 コンカレントエンジニアリング
 商品開発を短期間で確実に行うために,コンカレントエンジニアリングと呼ばれる取り組みが注目されている。これは,商品開発のコンセプトを決める段階から,具体的な意匠設計,商品設計,金型設計,生産準備に至る各プロセスにおいて,業務を同時並列的に進めることにより開発期間を短縮しようとするものである。この手法のキーポイントとなるツールが3次元CAD/CAMシステムである。
従来の商品開発とコンカレントエンジニアリングを比較したものを図1に示す。両者で決定的に異なるのは2次元CADを用いるか3次元CADを用いるかである。従来方式では,次工程の指示が全て2次元の図面データを介して行われるため,各部門間で形状理解に多大な時間のロスを生じてしまう。一方,コンカレントエンジニアリングでは3次元CADを用いることにより,商品の概念設計から詳細設計・金型設計に至るまで,共通の3次元のデジタルデータをもとに作業を進めることができる。また,3次元モデルから積層造形モデルや3次元FEM(有限要素法)モデルを作製するといった作業を容易に行うことができる。さらに,形状データを金型製作部門で活用することにより,開発の初期段階で量産検討を行うこともできる。
2.2 デジタルものづくり支援機器
 工業試験場では,デジタルものづくりに必要不可欠な3次元データを作成するツールとして,3次元CAD/CAM(I-DEAS,Pro-ENGINEER,CAMAND)をはじめ,加工データの検証を行うNCシミュレータ(NC simul)や,インターネットを介して協調設計を行うコラボレーションシステム(One Space)の導入を行った。
2.3 デジタルものづくりの工程
 図2に示すように,3次元CADを用いて,高精度にインペラのデジタルデータを作成した。本報では,これを基にして各加工機での試作加工に至るまでの工程を解説する。
2.3.1 光造形機への適用
 工業試験場が導入した光造形機(シーメット叶サ:SOUPU600GS)を図3に示す。これは,紫外線硬化性樹脂の液層に,スライスデータに沿ってレーザ光を照射することにより,照射された箇所のみが硬化することを利用し,硬化した部分を液槽中のテーブルに逐次積層させて3次元モデルを造形するものである。本装置は,表1に示すように固体レーザを搭載しているため,安定して高出力を得ることができるため,サイズの大きいものが高速に造形でき,微細な構造も精度良く造形できる。光造形機で造形したモデルを図4に示す。
2.3.2 5軸マシニングセンタへの適用
 5軸マシニングセンタ(鰹シ浦機械製作所製:FX-5G)の仕様を表2に,その外観を図5に示す。本機は,3軸の立型マシニングセンタに傾斜・回転テーブルを付加させて5軸加工を実現したもので,CNC制御装置はFANUC15-MBを用いている。5軸マシニングセンタは,工具を傾けて加工することができるため,オーバハング形状と呼ばれるようなインペラ等の羽根部分の裏面が加工できる。また,傾斜・旋回軸を工作物の姿勢の割り出しに用いることによって,一度のワーク取り付けで全加工が可能となり, 加工物の掴み換えに要する段取り時間の短縮や加工誤差をなくすことができる。
図6は,3次元CADデータを5軸マシニングセンタに受け渡すまでのCAM内での操作のフローである。CAMは,大別して工具経路を作成するメインプロセッサと,加工機に対応したNCデータを作成するポストプロセッサの二つから構成されている。メインプロセッサでは,3次元CADで作成されたモデルデータを基に,工具形状,主軸回転速度や送り速度等の加工条件を入力すれば,CL(Cutter Location )データと呼ばれる工具の姿勢や経路が作成される。一方,ポストプロセッサでは,メインプロセッサで作成したCLデータを基に,加工機の軸構成情報や軸移動範囲などの加工機固有の情報を入力すれば,NCプログラムデータが作成される。
5軸マシニングセンタのような,工具と工作物との相対的な位置関係がより複雑なNCプログラムの場合,従来までは,工具長や工具位置を補正して行うエアカットや,ケミカルウッドやアルミニウムなどの快削材を用いて行うテストカットにより検証を行っていた。しかしながら,ランニングコストがかかり,治具への干渉があった場合にはある程度の損害が避けられない問題があった。そこで,図7に示すように,コンピュータディスプレイ上で仮想的に切削するNCシミュレーションを用いてNCプログラムのチェックを行い,送り速度の最適化を行った。
CAMで作成したNCプログラムをLAN回線によってCNC制御装置に転送し,図8に示すような実加工を行った。完成したインペラモデルを図9に示す。
3.結 果
本報告では,3次元のデジタルデータを用いて,光造形機や5軸マシニングセンタで実加工するまでのプロセスを紹介した。
光造形機や5軸マシニングセンタは,従来の3軸加工機等に比べ,付加価値の高い加工を行うことができる。光造形機の積層に伴う表面段差や,5軸制御用の使いやすいCAMの開発など課題はまだあるが,高機能で高精度かつ高能率に加工ができるこれらの加工機は,今後ますますニーズが高まり普及していくものと考えられる。
工業試験場では,ものづくり支援機器の操作修得研修会を行い,各種設備を県内企業に開放している。また,コンカレントエンジニアリング研究会を発足させ,機器利用技術の向上や最新技術の情報提供を行っている。今後も,各設備を県内企業の振興に役立てていく予定である。


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