3.2 研究内容
 3.2.1 微少量クーラント供給システム
 図5に,加工実験機の写真と微少量クーラント供給システムの模式図を示す。クーラント剤はポンプによってノズル部まで送られ,そこで別の配管で供給される圧縮空気と混合される。圧縮空気とクーラント剤の供給量はそれぞれ調整可能であり,特にクーラント剤の供給量は1時間あたり10〜100mlと極めて微少量である。ノズルから噴射されるクーラント剤はミスト状であり,そのまま供給すると工具切削部へ到達する前に拡散してしまう。そのため,ミスト状のクーラント剤が拡散しないように,ノズル部はクーラント剤の配管が圧縮空気の内側になるような同軸の配管構造となっている。これによって,ミスト状のクーラント剤が圧縮空気にシールドされた状態で拡散せずに工具切削部まで噴射供給される。

図5 実験機と微少量クーラント供給システム

 3.2.2 工具摩耗量及び切削温度による評価
図6 工具摩耗と切削温度  図6に,旋盤を用いた旋削加工実験におけるクーラント供給方法の違いによる工具摩耗量及び切削温度を示す。工具は超硬(P25),材料はクロム鋼を使用している。加工条件は切削速度200m/min,送り速度0.25mm/rev,切り込み量1mmである。ここで,工具摩耗量は逃げ面摩耗幅VBを,切削温度は工具チップ下面の温度を測定した。
 工具摩耗は,微少量クーラント方式の方が通常の湿式よりも僅かながら抑えられているのがわかる。工具寿命をVB=0.3mmとすると,微少量クーラント方式の寿命は通常の湿式よりも約10%延長され,乾式に比べて約14%長くなっている。
 切削温度は,通常の湿式が最も低く,続いて微少量クーラント方式,乾式の順に高くなっている。この結果によれば工具摩耗量は微少量クーラント方式の方が湿式よりも大きくなると予想されるが,湿式による冷却効果は工作物にまで影響を及ぼすため,切削面の材料硬さが相対的に高くなり,これが工具摩耗を促進させたものと推測されている。

 3.2.3 今後の課題
 旋盤加工のように工具の切削部が連続的に工作物や切り屑に接触し,覆われている状況では,クーラントの冷却・潤滑効果も限られてくる。従って,クーラントがより確実に工具の刃先にまで到達できるシステムや加工方法を考えていく必要がある。
 また,従来のクーラントは切り屑搬送の役割も担っていたが,ドライ加工に近づけばその効果はほとんどなくなる。したがって,切り屑の処理性についても検討していく必要がある。

4.結  言
 中小企業の技術開発支援に高い評価を受けているシュタインバイス財団とフラウンホーファー協会において,企業の支援体制について調査した。これらの機関では,公的機関である大学・研究所の持つ豊富な技術的知識と研究設備,研究成果を通して,日本の地方公設試験場と同様に指導・相談,依頼試験,委託研究による技術支援が行われていた。しかし,支援業務に行政の予算はほとんど投入されず,それぞれの機関が支援業務自身による企業からの収入で運営を行っているのが特徴的であった。
 また,シュツットガルト大学工作機械研究所等では,ドイツにおける先進的な切削加工技術に関する研究について情報収集を行った。特にクーラント剤を極めて微少量に抑えて加工するセミドライ加工技術は日本でも注目される技術であり,今後の研究業務に反映させていきたい。
 最後に,工業技術の先進国であるドイツで大学,研究所等の関係者と交流を持てたことは大きな財産であり,今後の県内産業の振興に役立てていきたい。

謝  辞
 本調査を遂行するに当たり,終始適切なご助言を頂いた金沢大学名誉教授安井武司先生,ドイツ国内においてご指導,情報提供して頂いたドイツ各機関の方々に感謝します。

参考文献
1) Uwe Heisel,Marcel Lutz,Dieter Spath,Robert Wassmer, Ulrich Walter:Production Engineering,Vol || /1(1994)49.



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