4.結果と考察
 4.1 スラリーの配合比
 今回の実験では以前ジルコニアのグリーンシートを作製したのと同様な方法で最適なスラリーの配合比を決めた4)
 溶媒(水)量と結合剤量を変えてシート成形を行ったところ,以下の傾向がみられた。水の量が少ない場合は,混合中にボールに粉体が付着して混合が困難になった。水が多い場合は,スラリーの粘弾性が失われ,成形するとシートの形状が崩れた。
 他方結合剤が少ない場合は,粉体との混合が不十分になり乾燥するとシートにクラックが入った。結合剤が多い場合は,シートがべとつき乾燥しづらくなった。
 最適な配合比は重量比で下記の値となった。
原料 結合剤 界面活性剤
100 8 34 2

PZTの比重は,約8.0g/cm3で大きい。l及びHの値は大きくは変えれない。従って,(1)式からスラリーの粘性はかなり高くなるものと予想される。最適組成のスラリー粘性の経時変化を図2に示す。5時間以上でスラリー粘度は安定し,キャスティング前のスラリ


ーの粘性は予想通りかなり高くなった。スラリーの粘性が高いので配合の調整は難しくなった。その最適配合比からわずかでもはずれると,乾燥時にクラックが入るなど困難な点がみられた。

 4.2 焼成条件
 グリーンシートの重量分析(TG)-示差熱(DTA)曲線を図3に示す。室温から200℃にかけて,溶媒(水)の蒸発と,結合剤を構成する有機物の分解・燃焼による重量減少がみられた。DTAから有機物の分解・燃焼による2つの発熱ピークが,350℃と450℃付近で観測された。以上から,グリーンシートの脱脂条件を図4のように決めた。
 次にPZT原料粉末のTG-DTA曲線を図5に示す。TG曲線から以下のことがわかる。PZTは,1000℃から鉛の輝散による緩やかな重量減少がみられた。1100℃以上では鉛の輝散が顕著であったが,焼結を進め,圧電性を持たせるにはより高温が必要であり,1240℃で焼成を行うこととした。また,焼結終了後に1040℃で焼鈍を行うことは圧電性(特に機械的品質係数(Qm))を発揮するのに有効であった。焼成パターンを図6に示す。

 4.3 圧電セラミックスの評価
 アルキメデス法で測定した焼結体密度は7.54g/cm3であった。焼結体のX線回折パターンは,図7に示すようにペロブスカイト単相となった。正方晶系と仮定してCohenの式5)から格子定数を計算するとa=4.04Å,c=4.11Å,c/a=1.017となり,PZTはMPB相境界

に近い組成であることがわかる。走査型電子顕微鏡(SEM)で焼結体表面の微構造を調べると,2〜5μmの粒径であった。電気機械結合係数(k31)は30.1%,機械的品質係数(Qm)は1280で,プレス法で試作した試料の値とほぼ同じ値が得られた6)

5.結  言
 シート成形法でPZT圧電セラミックスを試作した。その結果以下のことを明らかにした。
(1) スラリーの配合比はPZT粉末100g,水8g,結合 剤34g,離型剤2gが最適であった。
(2) キャスティングは,フィルム送り速度0.56cm/秒, 第1ブレード隙間1.5mm,第2ブレード隙間1.0 mmで行い,厚さ0.4mmのグリーンシートを得た。
(3) 焼結体は,正方晶系のペロブスカイト結晶構造で あることを確認した。格子定数は,a=4.04Å,c= 4.11Åであった。
(4) 電気機械結合係数(k31)は30.1%,機械的品質係数 (Qm)は1280であった。

謝  辞
 本研究を遂行するに当たり,終始適切なご助言を頂いたニッコー株式会社,防衛大学校教授山本孝氏,富山県立大学工学部教授安達正利氏に感謝します。

参考文献
1) 鈴木傑:セラミックス成形−ドクターブレード法によるスラリー−,名古屋工業大学セラミックス研究  施設年報,Vol.3,p.1-12(1993)
2) 永田公一:懸濁液のレオロジカルな性質とアルミナ  グリーンシート特性,日本セラミックス協会学術論 文誌,Vol.100,No.10,p.1271-1275(1992)
3) 大塚寛治,大沢義幸,山田耕一郎:アルミナセラミッ クスのドクターブレード方式によるキャスティン グ条件とそれが成形体に及ぼす影響の研究(第1 報),窯業協会誌,Vol.94,No.3,p.351-359(1986)
4) 北川賀津一,山名一男,中村静夫:セラミックス型高 効率燃料電池の基礎,石川県工業試験場研究報告, No.43,p.27-32(1994)
5) カリティ,松村源太郎訳:新版X線回折要論,アグネ, p.320-337(1980)
6) Kaduichi Kitagawa,Shizuo Nakamura,Yoshiteru Douguchi, Hisakazu Fujimoto,Mikio Takimoto,Katuhiro Miyazaki and Takashi Yamamoto:Piezoelectric Properties of Pb(Zr,Ti)O3 Ceramics for the High-Power Use, Proceedings of the 14th International Japan-Korea Seminar on Ceramics, p.9-12 (1997)


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