CGによる伝統工芸文様集の作成と製品開発への応用

[製品科学部]   志甫雅人
製品科学部   梶井紀孝
製品科学部   高野千之

 県内の伝統工芸産地では,工芸品の文様作成にCG(コンピュータグラフィックス)技術を利用する企業が,年々増加している。そこでCG技術を利用した文様作成技術の普及と新製品開発の支援を目的に,CGによる伝統工芸文様集を作成し,その成果普及を行うとともに具体的な製品開発への応用を試みた。その結果として次のような成果を得た。
(1) CGを利用した文様作成技術普及のための具体的な事例として,文様集を完成させた。
(2) 文様デザインのソース提供に関して,インターネットの利用など新しい試みを行った。
(3) 文様集の製品開発への応用によって,業界での具体的な新製品開発の支援を行った。
キーワード:コンピュータグラフィックス,伝統工芸,伝統文様

Publication of the Traditional Patterns Book by Using Computer Graphics
and Application to the Development of the New Products

Masahito SHIHO, Noritaka KAJII and Senshi TAKANO

 In the place of the traditional crafts production in Ishikawa prefecture, recently the enterprises that produce the traditional patterns by using computer graphics are increasing in number. So in order to deffuse the method of pattern making by using computer graphics and support the development of the new products, we tried to publish the traditional patterns book by using computer graphics and apply the new computer graphics patterns to the new products.
 As the result, (1) As the specific example of pattern making by using computer graphics, we could publish the book. (2) For the service of pattern design source, we could try to use of internet. (3) We could support the development of the new products.
Key Words:computer graphics, traditional crafts, traditional pattern

1.緒  言
 近年,県内の伝統工芸産地では,加飾文様の作成にCG(コンピュータグラフィックス)技術を利用する企業が増えており,工業試験場への相談件数も年々増加している状況である。  そこで工業試験場では,CGを利用した文様作成技術の普及と新製品開発の支援を目的に,CGによる伝統工芸文様集を作成し,製品開発への応用を試みた。 以下にその内容及び経過について報告する。

2.CGによる伝統工芸文様集の作成
 平成8〜9年度に,CGデザインによるオリジナル文様事例354点を作成し,文様集として平成8年度に第1集を,平成9年度に第2集をまとめた。ここでは作成した文様のモチーフ,文様の作成手順,文様集の内容について説明する。
 2.1 文様のモチーフ
 古来より文様のモチーフとしては,植物,動物,道具,幾何学,記号,気象,人物,景観・自然,架空など,ありとあらゆるものが使われてきている。その中でも動植物は,私たちの生活に親しみのあるものとして,伝統工芸品の文様モチーフに数多く使われ,様々な意匠を生み出してきた。
 そこで今回は,作成したオリジナル文様が広く県内の伝統工芸分野で利用されるように,作成する文様のモチーフを動植物とした。さらに石川県の地域性を加味し,文様モチーフを次のように定めた。
(1) 文様集第1集の文様モチーフ
  「県内市町村及び県指定の動植物」47種
(2) 文様集第2集の文様モチーフ
  「県内市町村関連の植物」27種
 今回用いた文様のモチーフは合計74種であるが,その内容を表1に示す。県内市町村関連の植物は,県内市町村で指定されていないが,その地域に馴染み深いものを選定した。

表1 文様のモチーフ



 2.2 文様の作成手順
 CGデザインによるオリジナル文様事例は,図1に示す手順で制作した。

図1 文様の作成手順
 作成手順の各段階でのポイントをまとめると次のようになる。

(1) 手描き原図は,B4用紙に黒のインクまたは墨を用いてモノクロの線画で描き上げた。また一つのモチーフに対して,複数の文様原図を用意した。
(2) イメージスキャナーでの原図入力は,モノクロ2階調で,300pixels/inch以上の解像度で読み込み,マッキントッシュ・パーソナルコンピュータ上の  フォトショップ・データとして保存した。
(3) イメージスキャナー入力データ(フォトショップ・データ)を元にしたコンピュータ上での原図の書き起こしには,ストリームラインとイラストレーターを用いた。
(4) コンピュータによる文様の作成には,フォトショ ップとイラストレーターを用いた。複写,拡大・縮小,回転,反転といった基本的なCG機能から, 画像フィルタ効果やグラディエーション効果など特殊なCG機能まで利用した。

 2.3 CGによる伝統工芸文様集の作成
 前述のように,作成した文様事例は総点数で354点となったが,業界への成果普及を目的に,文様集としてとりまとめを行った。平成8年度に第1集を,平成9年度に第2集を完成させた。以下にその内容について述べる。
 2.3.1 伝統工芸文様集第1集
  県内市町村及び県指定の動植物(木・花・鳥・魚)をモチーフにしたオリジナル図案216点からなる文様集である。図2にその作品例を示す。

図2 文様集第1集の作品例
   アテの木(県指定の木)文様
   アマエビ(県指定の魚)文様

 第1集の文様事例は,すべて22cm×22cmの正方形の枠の中で展開される連続パターンの形式をとった。また色彩の展開をいっさい行わず,モノクロ2階調のものとした。その理由は,文様集のユーザと考えられる伝統工芸産地の技術者のイメージが,限定されることを恐れたからである。言い換えれば,この文様事例を参考にして,構図やレイアウトさらには色彩の展開を現場で自由に行って欲しいとの思いがあった。そのため,プリント印刷形式の文様集のほかに,文様をコンピュータデータで提供し,産地の技術者がそのデータを元に,コンピュータ上でオリジナルな展開ができるようにした。

 2.3.2 伝統工芸文様集第2集
第1集の続編で,県内市町村関連の植物をモチーフにしたオリジナル図案138点からなる文様集である。図3にその作品例を示す。

図3 文様集第2集の作品例
   ダイモンジソウ(白峰村)文様
   クズ(押水町)文様

 第1集の文様事例は,すべてが正方形の枠の中での連続パターン形式であったが,それに対して業界から盆や皿,重箱など具体的な器物への展開事例も示して欲しいとの要望があった。そこで第2集では円,楕円,正方形,六角形などの形に文様を配置した形式で文様事例を作成した。さらに第2集の138点の内,数点は漆器蒔絵や九谷焼上絵,加賀友禅を意識した色彩の展開を行い提示した。
 また第1集,第2集を通じて,オリジナル文様事例作成の際,日本の伝統文様に関する文献1〜6)や海外の伝統文様に関する文献7,8)を参考にした。


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