2.3次元形状の生成
 2.1 ステレオ法による3次元形状の入力
 伝統工芸品の新しい形状を生成するために,既存の製品の形状をステレオ法により入力する方法と断面形状の定義により回転体形状を生成する2つの方法を開発した。特に,前者の方法である多方向からのカメラにより,既存の製品を高精度に形状入力する手法について述べる。
 2.1.1 カメラパラメータの算出
 本手法では,ステレオ法の対応点検出の困難を避けるために,レーザのスリット光を物体に照射し,対応点を検出しやすいよう工夫した。この時,周囲の光環境を安定にするために暗幕を用いた。

図1 透視投影

 三角測量の原理により,3D空間の一点は,カメラの視線がなす2直線の交点として一意に決定できる。図1で示すように,空間中のある一点P(X,Y,Z)をカメラの仮想結像面へ透視した点P'(Xc,Yc,Zc),すなわち,測定点Pへ向かっている視線と結像面との交点は,次のように与えられる。

 ここで,fはレンズの焦点距離である。

 図1の透視変換は,点Pと点P'がともにカメラに固定した座標系で表現したとき適用できる。しかし,通常はカメラ座標系と物体座標系とに分離した座標系を用いる方が便利である。カメラ座標系で結像面(Zc=0)における座標(Xc,Yc)は,次になる。

ここでHc=(Z+f)/fである。
 この3×4のC行列がカメラパラメータであり,カメラの位置,姿勢,画角などの情報が含まれている。式(2)の行列式を展開すると次の2式が得られる。

  式(3)と式(4)に,物体座標系で基準となる点(X,Y,Z)とそれに対応するカメラ結像面での位置(Xc,Yc)を代入し2つの連立方程式を作る。したがって,カメラパラメータのC11からC34までの12個の未知数を求めるには,同一平面上にない6個の基準点が必要になる。

 2.1.2 対応点の決定と3次元位置の算出
 ステレオ法で一番重要なことは,物体上の3D位置P(X,Y,Z)が,左右のカメラのどこに写っているかを検出することである。図2は,左右のカメラで観察したスリット光像を,画像処理により2値化,細線化したものを,さらに分割し対応点を求めた図である。


 最終的に,物体上の任意の位置の3D座標を求めるには,左右のカメラで検出した対応点(XCl,YCl),(XCr,YCr)と24個のカメラパラメータ(Cl11,Cr11等)を式(5)〜式(8)に代入し,連立させて解くことにより3D位置P(X,Y,Z)を求める。


 2.1.3 セルフオクルージョンの改善
 (1)垂直方向のデータ補間
  形状の凹凸によって,計測が十分行えない箇所(セルフオクルージョン)が生じるため,図3のようにカメラの視線方向を上下2方向から計測し,データの欠けている部分を互いに補う必要がある。補間の方法は,まず,物体を上部アングルから撮像し,計測データ(Hデータ)を得る。同様にして,下部アングルからの計測データ(Lデータ)を得る。次に,Hデータよりライン毎に欠損部分を調べ,欠損部分の始点座標と終点座標を検出し,Lデータより欠損部分のデータを補う。しかし,この時補間の始点と終点部分に不連続点が生じ,形状データの連続性が失われる場合がある。これを改善するために,HデータとLデータの補間部分の始点と終点のY,Z座標間の差を基に,始点終点の前後3点の座標から次のように補間を行った。
Yh(n):補間の始点付近3点の上部データのY座標値
Zh(n):補間の始点付近3点の上部データのZ座標値
Yl(n):補間の始点付近3点の下部データのY座標値
Zl(n):補間の始点付近3点の下部データのZ座標値
と置く。ここでnは1から3までの整数値である。
修正後のY座標値(Yh(n)',Yl(n)' )とZ座標値
(Zh(n)',Zl(n)')は次のようになる。
Yh(n)'=Yh(n)-Yg・n         ……( 9)
Zh(n)'=Zh(n)-Zg・n        ……(10)
Yl(n)'=Yl(n)+Yg・(4-n)      ……(11)
Zl(n)'=Zl(n)+Zg・(4-n)       ……(12)
ここで,Yg=(Yh(3)-Yl(1))/6,Zg=(Zh(3)-Zl(1))/6である。
なお,終点部分の修正も始点と同様に行う。最終的に,H,Lデータで補間ができなかった部分は,欠損の始点と終点を直線で結ぶ処理を行った。

図3 垂直方向のデータ補間

(2)水平方向のデータ補間
 水平方向に関しては,通常左右のカメラの対応点検出により,3D座標を算出する。しかし,図4のように物体表面の凹凸の状態に起因して,一方のカメラでしかスリット光が撮像できない場合があり,そのためにデータの欠損が生じる。

図4 水平方向のオクルージョンの発生

これを改善するためにスリット光とカメラ1台の対で3D座標を求める。物体に射するスリット光平面は,Y-Z平面に等しいのでX座標値を0と置くことができる。従って,カメラLの場合は式(5),(6)を連立させ,またカメラRの場合は式(7),(8)連立させることによって3D座標(Y,Z座標)を求めることができる。これらの3D座標を用いた左右のデータの補間は,垂直方向のデータ補間方法と同様である。図5頭部の石膏モデル に示す人間頭部モデルの3D計測結果を図6補正を行なった人間頭部の計測データに示す。また,図73D形状入力施策装置に今回開発した3次元形状入力装置の外観を示す。


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