石川ハイテクサテライトセンター調査報告(第11報)
−U.S.A.における企業指導及びベンチャービジネス支援事例調査−
情報指導部 林克明

 平成9年3月13日〜28日までアメリカ合衆国を訪問し、公的機関による中小企業への指導状況およびインターネット利用等によるベンチャービジネス支援について調査した。
キーワード:インターネット、企業指導、ベンチャービジネス

  1. 緒言

     公的機関における中小企業への指導の現状とベンチャー企業への支援に関する調査を行うため、アメリカ合衆国(以下「米国」とする)の下記機関を訪問した。
    1)調査期間 平成9年3月13日〜3月28日
    2)調査訪問先の機関

     また、インターネット発祥地である米国におけるインターネットの利用方法と今後の可能性についても、ベンチャービジネスを中心に調査した。

  2. 米国における中小企業指導の現状

     日本では、中小企業の指導施設として工業試験場等の公的試験研究機関(以下「公設試」という)が整備されている。一方、米国では、中小企業指導のための公的機関は整備されていなかったが、近年日本の公設試を参考に同様の機関を全米各州に整備した。そこで、今回米国における公的機関による中小企業指導の現状を調査した。

    2.1 CMTCの概略
    図1 CMTCのエントランス  米国カリフォルニア州には、中小企業への指導を行う機関が3つある。調査先として、その一つであるCalifornia Manufacturing Technology Center(以下「CMTC」とする)を訪問した(図1)。CMTCは、米国の指導機関としては、ミシガン州、オハイオ州、ニューヨーク州、カンザス州等との機関とともに全米でも最大規模のものである。
     CMTCは、米国政府により設立され、人件費の分担割合は、政府予算が50%、州政府予算が25%、CMTCの収益(企業指導によって得られる使用料等)から25%となっている。政府からの予算は、設立より7年間のみの期間限定であり、8年目からは完全に私企業として自立し、収益のみによって経営されていく。現在、自立化の見込みは十分に有るとの由である。
     CMTCの職員数は、114名(1997年1月現在)であり、主に企業で8年間から17年間の経験を積んだ技術者達である。日本の公設試が試験研究機関であり、企業指導も行っているのに対し、CMTCは、研究業務は全く行わない指導専門の機関である。
     CMTCが存在するカリフォルニア州には、4万社の中小企業があり、1990年から1995年の間に航空機関系企業から14万人の失業者が発生した。また、カリフォルニア州の北部は、シリコンバレーに代表されるように半導体産業が中心産業であり、南部は航空機、医用機器、衣料が中心産業である。繊維業においては、単純生産ではアジア諸国の低価格品に対抗できないため、ファッションデザインをメインに移行しつつあり、特に短周期の婦人服を主に扱うことにより産業存続を考えているそうである。このような地域事情をもとに、CMTCの主要サービスは以下の7通りである。

    1. Process Improvements   (品質管理)
    2. Plant Modernization (工場近代化)
    3. Business Improvement (業務改善)
    4. Shop Floor Improvements (店舗改善)
    5. Product Design (製品設計)
    6. Systems Modernization (システム適正化)
    7. Work Force Development (講習会開催)
     CMTCに指導による経済への影響を1992会計年度から1995会計年度間でまとめた結果によると(会計年度とは8月から翌年7月までである)、4カ年における指導、援助企業数は、175社である。その結果、各企業平均で6.3人の新規雇用を創出し、新規雇用により新業務創出により、さらに平均3.5人分の新規仕事を創出した。最終結果として4900人の新規雇用が創出され、1230万ドルの州税が増加したとしている。

    2.2 スモールビジネスの失敗原因
     アメリカの企業総数は1100万社以上であり、毎年創業するスモールビジネスの80%が、3年以内に倒産している。その失敗理由を検討することは、成功するための条件が見えてくるといえる。以下に失敗理由のトップ10について述べる。ここで、スモールビジネスとは、小規模事業のことであり、ベンチャー企業と一致しないが、50%はベンチャー企業とみなしてよい。

    1. マネージメント・インフォメーション・システムの欠如
      失敗する大抵の事業家は何が良く機能し、何が良く機能していないかについて、判断するための適切な情報を作り出す体系的な方法を持っていない。また、ビジネス上から発生する各種のデータを自分のビジネスに価値のある情報へとほとんど変換できないことが挙げられる。
    2. 経営者のビジョンや目的明示の欠如
      事業家は自己の事業のビジョンやそのビジネス目的を明確に設定する必要があり、さらに、その目的と手段・方法が逆であってはならないことがある。
    3. 財務計画やそのレビューの欠如
      大抵の自営業者はその事業において純資産を築きあげることが最も大切であるにも関わらず、目先の収入の増加のみに集中しがちである。
    4. ビジネスにおける特定個人への過度の依存
      多くの事業主は、必要な分野についての知識がない場合やその分野について学ぶ時間が不足する場合には、その分野についての専門家を採用する傾向がある。しかし、事業家はそのプロセスを自分で習得し、自らが会社での仕事にどのように実行させねばならないかについて従業員をトレーニングすることが肝要である。
    5. マーケットセグメンテーションやマーケティング戦略の貧弱性
      失敗する大抵の事業家は顧客が誰であるのかを良く認識していない。自分のビジネスがどの消費者層を対象にしているのかも明確にしていない。
    6. 会社の目標設定の失敗やその目標の従業員との共有の欠如
      大抵の事業家は、会社の目標を明確に定義付けしていないか、もしくは目標があってもその目標を効率的に従業員等に伝えようとしていない。
    7. 市場における競合状況に対する認識の欠如
      事業家は、往々にして日々の仕事におわれ、市場においての競合他社がどのようにビジネスを展開しているのか、また自分のビジネスをどのようにより良く改善していくかについて、いつも後手になっている。
    8. 資本と運転資金の不足
      資本と運転資金の不足は、それ自体が主要な失敗の原因と位置づけられるというよりも、実際にはその他の原因による問題の一つの症候にすぎない。
    9. 基準化された品質管理プログラムの欠如
      事業主は、顧客に対してより良いサービスや結果を生み出すためのプログラムを標準化すると共に、そのプロセスを再評価する必要がある。
    10. ビジネスの戦略的運営以上に技術的側面への偏重
      多くの事業主はそのビジネスをいかにして伸ばすか、どのようにして純益を向上させるか、競争相手と自社の能力を良く知り、どのように競合していくべきか等戦略的な分野において知恵を絞るより、技術的な部分にあまりにも偏重しすぎている。

  3. 米国におけるベンチャー企業支援

     米国は日本に比してベンチャー企業が生まれやすく、また成功しやすいと言われている。現在、日本においても公的機関、政府によるベンチャー企業奨励の気風があるが、目覚ましい成果は少ない。そこで、米国でインターネットを利用したベンチャーとして成功している企業及びベンチャー支援の立場にある企業等を調査した。

    3.1 インターネットの商業利用への模索
     インターネットは元来学術用として誕生した後、通信媒体の一つとして発展してきた。日本においても一般的になりつつあり、最近は多種多様な用途への利用が模索されている。例えば、電子キャッシュ(電子決済)、ブロードキャスティング、電子モール、電子広告等、その多くは商業分野での成功の可能性を示唆している。今回訪問した Stanford Publications Internationals社(以下「SPI社」とする)は、インターネットを媒体とした図書販売を行い、成功している企業の一つである。杉本理社長兼最高経営責任者が1993年に創業し、その従業員は現在12名である。
     SPI社は、杉本氏が米国スタンフォード大学に留学中に、日本在住の知人から洋書(米国で出版されている書籍)の日本への送付希望の電子メールを頻繁に受け取り、洋書を日本へ輸出する事業を着想したことから創業された。さらに1996年4月には、総合的なインターネット技術サービスをおこなう、Stanford Internet Solutions社を創業した。従業員は6名である。
     SPI社の特徴は、無店舗形態にある。しかし、独自に築いた200万冊の書籍データベースを資産とし、日本のエージェントを通じて送られてくる注文情報をとりまとめて、独自の配送ルートを使用し、2500トン/月の書籍を日本へ輸出している。さらに現在はCDの輸出を計画中である。エージェントとは、日本でインターネットを通じて注文を行う顧客とSPI社との仲立ちを務める企業等である。主なエージェントは、ダイイチ(広島市)、大学生協京都事業連合(京都市)、共栄データセンター(金沢市)、勝木書店(福井市)、文苑堂(富山市)である。各エージェントは、SPI社の書籍データベースの使用に対し、ライセンス料を支払う。ライセンス料には、データベースのメンテナンス料が含まれている。すなわち、SPI社にとって、インターネットは、データベースを提供しライセンス料を得るための媒体である。インターネットを利用したベンチャー企業として、SPI社は成功企業の代表的な例といえる。
     また、SPI社は社内のスペースの一部をレンタルすることを計画している。訪問時点ですでにレンタルブースが準備されており、日本企業や自治体のシリコンバレーにおける情報収集拠点等の出先機関としての使用が可能としており、実際に日本の自治体からの打診もあり交渉中とのことであった。

    3.2 新分野進出による成功例
     PLEXTOR社は、CD-ROM装置生産とOEM供給等で米国において東芝と双璧をなす企業である。その親会社は長野県にあるシナノケンシ(株)である。シナノケンシは、元来その名の通り絹紡糸を行う、典型的な繊維系企業であった。
     シナノケンシは大正7年に、信濃絹糸紡績株式会社として創業を開始したが、絹紡糸の売上高は1993年度時点で、総売上高(約290億円)の約5%を占めるだけとなった。現在シナノケンシは、繊維事業部(1918年)、精密電機事業部(1962年発足)、電子機器事業部(1980年発足)、印刷機器事業部(1993年発足)の4事業部制をとっており、PLEXTOR社は、電子機器事業部に属し1990年に設立された。主要事業は、CD-ROM装置の販売であるが、CD-ROMユニットそのものは、日本で製造しており、筐体への組付け、技術サポート等をPLEXTOR社で行っている。
     繊維業とCD-ROMはなんのつながりも感じられないが、1962年(昭和37年)に、産業構造の変化を予測し、オープンリール・テープレコーダ用のACモータの製造を開始したことがきっかけとなっている。その後ファンモータやVTR用モータ等各種産業用モータを製造した実績を元に、1989年にCD-ROMの販売を開始した。全くの異業種に参入することは、資金、マーケティングリサーチ、人材確保等に困難であると推定されるが、繊維業に限る話ではなく、業種転換や複数の業種を持つことは、すべての業種に共通する生き残り策であると考えられる。

  4. ベンチャー企業支援

     一般に、米国は日本に比してベンチャー企業が生まれやすく、成功しやすいと言われている。特にカリフォルニア州北部、サンフランシスコ湾沿いに位置するシリコンバレーと呼ばれる地域においては、人材、情報、資金が集積しているため、ここで創業する人が多い。特に、資金に関しては、ベンチャー初期の立ち上げ時期に、銀行等のベンチャーキャピタルからまだ資金援助が受けられない時に、出資を行う、リトルエンジェルと呼ばれる個人資産家の存在が意義深い。また、米国におけるベンチャーキャピタルは、企業収支が負であっても、企業業績が上向き出した時点で出資を決断する。しかし、日本のキャピタルの多くは、収支が正になった時点で出資するため、せっかくのベンチャービジネスが成功する機会が奪われているように考えられる。
     ベンチャービジネスの失敗要因を、INNOQUEST社のSam Kano氏、Stanford Publications International社の杉本氏、PLEXTOR社のIsao Shoji氏にそれぞれ尋ねた結果、以下に示すほぼ同様の回答を得た。

    1. マーケティングの失敗
      技術の商品化の遅れや、他のより優れた技術の出現によるマーケットの喪失。
    2. 資金不足
      研究開発や試作までは順調であったが、生産を行うための資金が集まらない。また、資金回転がうまく行かずに、黒字ながら倒産するケース。
    3. マネージメント経験の不足。
      エンジニアとしては優秀だが、マネージメント能力の欠如による事業の失敗。

  5. 結言

     今回の米国での調査により、以下の成果を得た。

    1. 米国における中小企業指導のノウハウから得られた失敗原因(10項目)を参考に、県内企業育成への指導の参考とできる。
    2. インターネットの商業利用の成功例から、県内企業でのインターネット利用ビジネスの指導に資することができる。
    3. 先進地である米国におけるベンチャービジネスへの支援方法を、今後の日本での支援方法の参考にできる。

    謝辞
     今回の米国調査で、お世話になったCMTCのKenneth tsunoda氏、SPI社の杉本理氏、INNOQUEST社のSam Kano氏そしてPLEXTOR社のIsao Shoji氏に感謝します。また、ご協力頂いた、(財)大阪科学技術センター理事の谷口邦彦氏、(株)センサの松井和幸氏に感謝します。


前のページへ戻る