図5 珪藻殻の比表面積におけるpH依存性
図6 アルカリ処理した珪藻殻の吸湿能
3.6 粘土成分の吸着水量と凍結水量との関係
各相対湿度の条件下で水分吸着した2μm以下の試料についてDSC測定を行い、その結果を図7に示す。
水分吸着量の少ない試料即ち、RHが低い条件下で吸湿した試料は-30℃から0℃での融解ピークが確認されず、試料表面に束縛されていることがわかる。
細孔径と氷点降下とは逆比例の関係にある。図7に示す0℃付近の融解ピークからの氷点降下(ΔT)は2〜4℃であることから、小野10)が指摘しているようにその細孔径は26nm以下の細孔に吸着した水であることがわかる。
ところで第一層に吸着される水分子は、表面Si-OH基と水素結合した形で強く束縛されている。これに対して、表層部の水分子はVan der Wallsによる弱い分子間引力と水素結合で結ばれている。シラノール基の生成と消長は珪藻土の比表面積と細孔構造と密接な関係にあるので、更に吸湿能を高める方向で、今後珪藻殻の表面改質を詳細に検討する予定である。
図7の結果を基に融解熱量から求めた凍結水量と蒸発熱量から求めた全吸着水量との関係を図8に示す。
図7 吸湿試料のDSC曲線
図8 水分吸着量と凍結水量との関係
水分の吸着量が全吸着量の36%に達するまで融点が観測されず、その束縛力の強さは氷をつくるのに要するエネルギー(6.02kJ/mol)よりも大きいことを示している。水分吸着量が125mg/gを超えてから凍結水が確認されるようになり、以後融解熱量から求めた水分吸着量と蒸発熱量から求めた水分吸着量と略一致する。
用いた試料の比表面積は60.8m2/gであるので、試料表面に約6層の水分子が覆う多分子層を形成しており、6層を超える水は自由水で出入りしやすい。
3.7 細孔分布
未処理品が吸放湿性に優れているのは、3.2項での吸放湿のメカニズムで述べたように、細孔径と密接な関係にある。このため、(1)式から、図3の等温吸着曲線を基に細孔分布曲線を求めた。
図9に示すように未処理品の吸湿特性は、精製品、焼成品と異なり、細孔半径 100nmから急激に増加しているのが特徴である。3nm以下の細孔に吸着した水分は、極めて強く束縛を受けて放湿しにくくなる。このように能登珪藻土が吸放湿性能に優れた理由として珪藻土の細孔径と比表面積が比較的に大きいことが裏付けされた。
一方、精製品をpH13でアルカリ処理後、750℃で加熱処理した試料とその非加熱試料及び2μm以下の試料について水銀圧入法によってメソポア領域(2〜50nm)からマクロポア領域(50nm以上)の細孔分布測定を行った。その結果を表5に示すようにいずれの試料ともにマクロポア領域に属するが、2μm以下と珪藻殻試料を比較して全細孔容積、全細孔比表面積及び平均細孔直径に大きな差異がみられる。2μm以下の試料の全細孔容積は超微粉炭酸カルシウムとほぼ同様な結果が得られた。同試料の水分吸着量が370mg/gなので約40%の水分が細孔に充填されたことになる。
試料 | 全細孔容積 (ml/g) | 全細孔比表面積 (m2/g) | 平均細孔直径 (nm) |
---|---|---|---|
2μm以下 | 0.911 | 34.2 | 106 |
珪藻殻 750℃ | 1.677 | 2.5 | 2,650 |
〃 非加熱 | 1.915 | 1.8 | 3,220 |
多孔質素材である能登珪藻土の吸放湿特性と表面性質について基礎的な検討を行い、吸放湿特性に優れていることを確認した。以下にその検討した結果を示す。
参考文献