3.4 吸放湿性能
    図4 珪藻土の吸放湿特性  2.2項に沿って交互にRH59%と100%の条件下のデシケータに一日毎に入れ替えて、吸放湿性能を評価した。
     図4に示すように吸放湿能の間差は未処理品で40mg/g、精製品は15mg/gになる。しかし、焼成品は僅か6mg/gしか有していない。このように未処理品が吸放湿性しやすい理由として、比表面積と細孔が比較的に大きいので相対湿度が高い領域で吸湿しやすい。一方、珪藻土表面は吸湿した水分を数Åの細孔を有するゼオライトに見られるような強力な束縛力を有していないので放湿しやすいことが推察される。

    3.5 アルカリ処理した珪藻殻の吸湿性
     珪藻殻試料にpH9.0〜13.6に調整した苛性ソーダ溶液でアルカリ処理した珪藻殻の吸湿性について検討した。 図5よりpH9で処理した試料の比表面積は、無処理に比べて約20%増加するが、それ以降急激に減少した。一方、pH12以上の苛性ソーダ溶液でアルカリ改質した試料の比表面積当たりの吸湿量が、図6よりRH86%の条件下で10mg/m2近くまで向上している。
     この比表面積当たりの吸湿能は、2μm以下の試料よりも大きくなっている。その理由として、親水性のシラノール基の密度が改質によって高くなっているのではないかと考察される。

    図5 珪藻殻の比表面積におけるpH依存性
    図6 アルカリ処理した珪藻殻の吸湿能

    3.6 粘土成分の吸着水量と凍結水量との関係
     各相対湿度の条件下で水分吸着した2μm以下の試料についてDSC測定を行い、その結果を図7に示す。
     水分吸着量の少ない試料即ち、RHが低い条件下で吸湿した試料は-30℃から0℃での融解ピークが確認されず、試料表面に束縛されていることがわかる。
     細孔径と氷点降下とは逆比例の関係にある。図7に示す0℃付近の融解ピークからの氷点降下(ΔT)は2〜4℃であることから、小野10)が指摘しているようにその細孔径は26nm以下の細孔に吸着した水であることがわかる。
    ところで第一層に吸着される水分子は、表面Si-OH基と水素結合した形で強く束縛されている。これに対して、表層部の水分子はVan der Wallsによる弱い分子間引力と水素結合で結ばれている。シラノール基の生成と消長は珪藻土の比表面積と細孔構造と密接な関係にあるので、更に吸湿能を高める方向で、今後珪藻殻の表面改質を詳細に検討する予定である。
     図7の結果を基に融解熱量から求めた凍結水量と蒸発熱量から求めた全吸着水量との関係を図8に示す。

    図7 吸湿試料のDSC曲線
    図8 水分吸着量と凍結水量との関係

     水分の吸着量が全吸着量の36%に達するまで融点が観測されず、その束縛力の強さは氷をつくるのに要するエネルギー(6.02kJ/mol)よりも大きいことを示している。水分吸着量が125mg/gを超えてから凍結水が確認されるようになり、以後融解熱量から求めた水分吸着量と蒸発熱量から求めた水分吸着量と略一致する。
     用いた試料の比表面積は60.8m2/gであるので、試料表面に約6層の水分子が覆う多分子層を形成しており、6層を超える水は自由水で出入りしやすい。 

    3.7 細孔分布
     未処理品が吸放湿性に優れているのは、3.2項での吸放湿のメカニズムで述べたように、細孔径と密接な関係にある。このため、(1)式から、図3の等温吸着曲線を基に細孔分布曲線を求めた。

    図9 細孔径と吸湿性能との関係

     図9に示すように未処理品の吸湿特性は、精製品、焼成品と異なり、細孔半径 100nmから急激に増加しているのが特徴である。3nm以下の細孔に吸着した水分は、極めて強く束縛を受けて放湿しにくくなる。このように能登珪藻土が吸放湿性能に優れた理由として珪藻土の細孔径と比表面積が比較的に大きいことが裏付けされた。
     一方、精製品をpH13でアルカリ処理後、750℃で加熱処理した試料とその非加熱試料及び2μm以下の試料について水銀圧入法によってメソポア領域(2〜50nm)からマクロポア領域(50nm以上)の細孔分布測定を行った。その結果を表5に示すようにいずれの試料ともにマクロポア領域に属するが、2μm以下と珪藻殻試料を比較して全細孔容積、全細孔比表面積及び平均細孔直径に大きな差異がみられる。2μm以下の試料の全細孔容積は超微粉炭酸カルシウムとほぼ同様な結果が得られた。同試料の水分吸着量が370mg/gなので約40%の水分が細孔に充填されたことになる。
    表5 珪藻土の細孔分布
    試料全細孔容積
    (ml/g)
    全細孔比表面積
    (m2/g)
    平均細孔直径
    (nm)
    2μm以下0.91134.2106
    珪藻殻 750℃1.6772.52,650
     〃 非加熱1.9151.83,220

  1. 結言

     多孔質素材である能登珪藻土の吸放湿特性と表面性質について基礎的な検討を行い、吸放湿特性に優れていることを確認した。以下にその検討した結果を示す。

    1. 能登珪藻土は種々な鉱物で構成されている。各粒径毎の吸湿性を検討した結果、珪藻土の吸湿性は比表面積 に比例し、2μm以下の雑粘土に強く支配される。20℃でRH100%における2μm以下の雑粘土の吸湿能は、370mg/gに達した。
    2. 交互にRH59%とRH100%の条件下のデシケータに一日毎に入れ替えて、吸放湿性を評価した。その結果、未処理品の吸放湿性は約40mg/gとなる。
    3. 珪藻殻のアルカリ改質によって、比表面積当たりの吸湿量を約2倍に高めることができた。
    4. DSCの測定から珪藻土に対する全吸湿量の36%に至るまでの吸着された水分は、−30から0℃の間で融解熱を確認することができず、細孔内で氷結していない。このことから吸着された水分は、試料表面に強く束縛されていることがわかった。
    5. 珪藻土の平均細孔直径は、いずれもマクロポア領域
      (50nm以上)に入る。未処理品の細孔半径が、10nmから急激に吸湿容量が増加する。

    謝辞
     細孔分布の測定は島津製作所(株)試験計測事業部 大棚勝之氏に依頼しました。ここに深く感謝致します。一方、本研究遂行に協力いただいた金沢大学工学部田辺菜採、来島英雅両氏に感謝致します。

     
    参考文献

    1. 藤嶋 昭,橋本和仁:化学と工業,pp.764-767,Vol.49(1996)
    2. 大橋文彦:抗菌抗黴技術開発の現状と新しい展開,人工粘土研究会第28回講演会(1995)
    3. 石川県商工労働部:石川県産業高度化10ヵ年戦略,pp74-75(1995)
    4. 石川県能登珪藻土利用研究会基礎部会編:能登珪藻土の基礎研究,pp.9-14(1966)
    5. 久保輝一郎他:粉 体 理論と応用,丸善,pp.108-125(1968)
    6. 日本分析化学会編:分析化学データブック改訂第3版,pp.132-142(1993)
    7. 工業技術連絡会議窯業部会編:日本の窯業原料,pp.617-621(1992)
    8. 慶井富長:吸着,共立全書,pp.117-118(1968)
    9. 岩佐 宏、舟崎 護:日本建築学会学術講演予稿集,pp.1341-1344(1994)
    10. 小野嘉夫:化学と工業,Vol.33,pp.586-589(1980)

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